スターチス
それからしばらくして、みっちゃんとソーイチロウは部屋を出て行った。
みっちゃんがソラ姉と一緒にいるのが辛くなったんだと思う。
ソーイチロウだって辛かったと思う。
傍から見てても二人は素敵なカップルだったから。
二人が部屋を出て行く日、ソラ姉は「幸せにね」って言って笑った。
みっちゃんはそれを見て泣いてた。
ソラ姉は怒ってたけど。
その後のソラ姉はあたしの傍でずっと泣いてた。
今までずっとみんなの姉貴分だったから、正直びっくりした。
今までも散々泣いてきてたんだろうと思う。
それなのに、どこからそんなに涙をもってくるんだってくらい泣いてた。
ずっとあたしの服を掴んだまま、陽が傾くまで泣いてた。
最後は泣きつかれて眠ってしまったけど、そんなソラ姉を見てあたしまで泣けた。
たった一年のルームシェアだったけど、いつだってソラ姉はみんなのことを考えていてくれて、ご飯も作ってくれて頼れる姉貴だった。
だからきっと、みっちゃんにも本当の自分の気持ちを言えずに終わったんじゃないかなって思ってしまった。
あたしの膝枕で眠ってるソラ姉の頭を撫でながら、あたしもずっと涙を流してた。
様子を見に来たユーイチに見られたときは内心焦ったけど、何も言わずにティッシュを渡してくれて、ソラ姉をベッドに寝かせたあと、ずっとあたしの傍でいてくれてた。
頭を撫でたり、背中をさすったりするわけじゃなく、ただあたしが泣き止むまで隣でずっと居てくれた。
多分、ユーイチも同じ気持ちだったんだと思う。
たった一年、されど一年。
一年も毎日一緒にいてりゃ情だって湧く。
仲が良かった分、一般的な感情よりは濃い気持ち。
きっとソラ姉だって出て行ってしまう、そう思ったら寂しくて悲しかった。
ソラ姉は次の日には復活してた。
泣きつかれて眠ってしまったせいで赤く腫れた目は残っていたけど、何事もなかったかのように朝食を作ってくれてた。
そんなソラ姉を尊敬したし、そうなりたいと思った。
しばらくはソーイチロウとみっちゃんが抜けた5人でのルームシェアになった。
さすがに7人で住んでた部屋を5人で過ごすには広いし、家賃もキツイってことになって今の部屋に変ったけれど、部屋を変えて、しばらくしてからソラ姉が結婚することになって部屋を出て行った。
突然すぎる話に全員驚いた。
部屋を変えて、そろそろ慣れたかなって頃で、ソラ姉が涙を流した日から半年とちょっとが経っていなかったから。
結婚相手はソラ姉の幼なじみさんらしい。
2歳年上で頼れる兄貴だった。
結婚するからって身内でもないのに会わせてもらったときは感動した。
“素敵な人だな”って心から思えた。
彼氏さんの隣で立つソラ姉はあの頃のソラ姉はいなくて、本当に幸せそうだった。
あの時を引きずってるのが馬鹿らしく思えるくらいだった。
ソラ姉は「大切な人ほど近くにいすぎて気付かないものね」と苦笑していた。
あの頃、本当にソラ姉の隣にいたのはあたしではなく幼なじみの彼氏さんで、その傷を癒してくれたのも彼氏さんなんだろう。
全然気付かなかったのは当たり前なんだろうけど、やっぱり突然すぎる話に寂しさしかなかった。
いつだって傍にいてくれたのはソラ姉だったのに、そのソラ姉がいなくなって寂しく感じないわけがない。
ソラ姉が気付いて、あたしを抱きしめて泣いた。
あたしが泣いてないのに幸せになるソラ姉が泣いた。
「泣くのは、あたしだよ」って言ったら、「あんたの代わりにあたしが泣いてるの」と言われて、思わず彼氏さんを睨んでしまうほどだった。
今、唯一連絡を取ってるのもソラ姉で、幸せな新婚生活を送ってるらしい。
ソーイチロウの事はルームシェアも同じでいい思い出になったって言ってた。
それがあっての今の幸せだ、とも言ってた。
あたしはソラ姉が幸せなら、それでいい。
そう言うとソラ姉は「あんたも幸せになんのよ!」となぜか怒られたけど。