スターチス

いつかはこんな日が来ると思ってた―――というか、あたしが一番最後まで残るんだって予想はしてた。

ずっと彼氏いないし、そんな予定もないし、なにしろ恋愛自体がご無沙汰だったから。
それはもう想定内だけど、残った相手がまさかコイツだとは思わなかった。

頼りない、と言ってしまえばそれまでだけど、意外と一番身近にいた人って言えば、そうなる。
あたしが辛いときは、いつも傍に居てくれた。

みっちゃん達が出て行ったときも、ソラ姉が泣いたときも、ソラ姉が出て行ったときも、ソラ姉の結婚式も、あたしが泣いてしまったときは必ず隣に居たのが、ユーイチだった。

「ユーイチは、そういう予定ないの?」

明日ハジメくんが出て行くんだから今後の予定を聞く雰囲気になったのは当然のことで、別にユーイチの恋愛事情を聞きたいわけじゃない。
だけど、もしユーイチまで出て行くことがあるなら覚悟しなくちゃいけない。

そんなあたしの気持ちに気付いているのか気付いてないのかわからないけど、机に突っ伏したまま顔は上げなかった。
だから、聞いてないんだと思ってた。

「そういうサチはどうなの」

聞こえてんのかい、と思ったけどそれは言わず、「あたしは無い」と答えた。
どうせ「やっぱりな」って答えが返ってくる。

どうせあたしは負け犬組ですよ、と自棄のコーヒーをお替りしようと立ち上がったとき、「俺も無い」と聞こえて、一瞬足が止まった。

あまりにも小さな声だったから、というのは半分本当。
でも半分は振り返り見たユーイチの視線があたしに向けられていて驚いたから。

あたしに話しかけているんだから当たり前って言えば当たり前なんだけど、目が真剣すぎて思わず足を止めてしまうほどだった。

「あっそ」

なんとか誤魔化すように素っ気なく言ってみたけど、ちょっと心臓が早い。
まさか見られてるなんて思わなかったから驚いた。
戻ったときには机に突っ伏していてホッとした。
あのままだったら、どうしていいかわからなかっただろうから。

結局、その日は3人でご飯を食べに行って、軽くお別れ会みたいな感じになって、毎度のように“思い出話”が語られる。

ハジメくんが一番印象に残ってるのはみっちゃんがザルだって知ったときのこと。
細くて、可愛くて、いかにも女の子なみっちゃんが7人の中で一番強くてザルだって知ったときは本気で驚いたらしい。
ハジメくんも結構強いほうだけど、一気に潰されたって笑ってた。

そのギャップで好きになったのかもしれないって、今だから笑って言える、とも言ってた。
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