スターチス
次の日は休日で、あたしとユーイチも手伝ってハジメくんのお引越し作業の手伝いをした。
それも朝から始めて昼には終わってしまった。
午後からは愛しの彼女が来るらしいから早めの解散をして、とうとう2人になった。
「なんだか呆気ないね」
「ん?」
「ルームシェア」
「あぁ…」
まるで何も感じてないかのように返事をするユーイチに呆れる。
一年以上一緒に過ごしてきて情の一つも沸かないってどうなんだろう?
そう思うのは自分勝手とわかってるけど、そう思わずにはいられない。
表情一つ変えないユーイチの心は読めない。
みんなが順に出て行くときも、一人我関せずって感じだった。
そんなユーイチにソラ姉は怒ってたけど…て、またソラ姉だ。
どんなけ好きなんだ、と呆れて自分に溜息が出た。
それにしても、これからどうしよう。
今までは3人だったから特に何も思わなかったけど、男女で一部屋ってなるとさすがに考える。
別に何の感情もないから続けてもいいけど、憧れの一人暮らしも経験してみたい。
男女で一部屋ってルームシェアっていうより同棲って感じでルームメイトだけの感情しかないあたしはあまりいい気はしない。
「…シェア」
「ん?」
無表情のくせに突然ポツリポツリ話し出すから最初の一言は聞き取りにくい。
「ルームシェア」
「うん?」
「続けるよね?」
何を言い出すかと思えば、やっぱりユーイチも同じこと考えてたか。
「そうだね…」と長い息をに吐き出すのと同時に出た。
「あたしも考えてたけどさ?生活費のことを考えれば、このまま続行の方がいいのかもしんないけど…あれだね、ユーイチからそんな言葉が出るなんて思わなかったよ」
そう笑うと「なんで」と返ってきた。
だって唯一このルームシェアに反対したのがユーイチだったから。
“生活費のこともプライベートのことも、約束事を作ったって守られやしないだろう”って最後の最後まで反対してたユーイチが“続行宣言”するなんて驚くに決まってる。
それがあたしじゃなくたって今の言葉をハジメくんに言ったって絶対に驚く。
それくらいユーイチは硬派な男だったのに。
「金銭的には続行の方が浮くんだけどね。でもほら、二人だし」
「別にサチに欲情したりしないから」
あたしはそういうことを言ってるんじゃない。
無愛想なうえに失礼発言まで、あたしを完全になめきってる。
「あたしだってユーイチには、その気になれないよ」
売り言葉に買い言葉で言ってしまったけど、ユーイチはあたしを数秒見つめて「あっそ」とかわされた。
お互いこんな感じだったら続行でも何の不便は無い。
お互いプライベートを大切にするほうだし、基本的には奔放主義で我関せずって感じだから、二人でいたって今までとはなんら変わらない生活が送れると思う。
話のゴールは見つからないまま、とうとう二人になってしまった部屋に帰ってきて、ユーイチが鍵を開けたとき、「別に俺はどっちでもいい」と突然呟いた。
あれから無言で帰ってきたのに、また何故このタイミングで?って思った。
それはいつものことだけど、結局その後もその話はしなかった。
帰ってきてすぐ二人分のコーヒーを作る。ハジメくんの分の食器が無くなっただけで随分大きな食器棚だなって思ってしまう。
こういう時に寂しさがこみ上げてくるっていうか、居なくなったことを実感する。