スターチス

一つ溜息吐いて、作ったコーヒーを持ってテーブルに掛けたと同時に視線があたしに向けられた。
今までの流れからして話の続きがくるんだなって思った。

「俺はどっちでもいいけど」
「うん」
「サチが寂しいなら続ける」
「はい?」
「サチが一人でも大丈夫になったら解散」
「なんで」
「サチ、寂しいだろうと思って」

何、言ってんの?って言えば、よかったんだと思う。
実際そう思ったし、口に出せばよかったんだと思う。

でも、何がそうさせたのか、あたしにもわかんない。
わかんないけど、ユーイチが頭を撫でるからイラッとして避けようとした手を掴まれて、今度は抱きしめられたからそうなっちゃったんだと思う。

「サチが泣く間は一人にはできない」

どこぞのナイトを気取ってんのかわかんないけど、その言葉に「バカじゃないの」としか返せなかった。
ユーイチのされるがままで、ずっとユーイチの腕の中で泣いてた。

「バカじゃないの」
「うん」
「調子にならないで」
「…うん」
「笑わないでよ!」

それも全部見透かしたような含み笑い。
バカにしてるとしか思えない。
強がって文句ばっかり言ってるあたしがバカみたいじゃない。

でも、それもしょうがない。
いつだって、あたしが泣くときはユーイチが傍にいた。
あたしが泣くときだけ、ユーイチはあたしの傍にいた。

部屋が静まり返ったとき、ふと緩くなるそのタイミングを見通したように部屋に来て、泣き始めるあたしの隣に座ってた。

黙って文庫本を読んでたり、手持ち無沙汰のときは頭をずっと撫でてくれてたり、部屋に転がってる雑誌を読み始めたり、それは色々だったけど寂しさのあまりに服を掴んだ手を離そうとはしなかったし、八つ当たりで全く関係ないユーイチに文句言ったときも一切怒らなかった。

ただずっとあたしの傍でいて、相変わらず無愛想な顔と声で、「そう」と「うん」しか言わなかった。

見透かされてる自分が猛烈に恥ずかしくなるときだってあった。
それでも、自分中心なあたしは泣き止むこともできずに、泣きつかれて眠ってしまいユーイチにベッドに寝かされてることに朝気付くことが多かった‥‥というか、ずっとそうだった。

今だってそう。
文句を言っても腕の中から抜け出そうとしないあたしを黙って抱きしめてる。
これじゃあ、あたしがユーイチを必要としてるみたいじゃない。

涙が止まらない目を手で強くこすると、それに気付いたユーイチが「赤くなるからやめろ」と止める。

あたしの母親か!と思ったけど、あたしの身体はえらくユーイチに素直で、あたしの意思に関係なく、あっさりとその手を止めた。

手が止まると今度はユーイチの指があたしの目元を拭う。
目元から頬まで涙の跡を消すように優しく触れてく。
それが急激に恥ずかしくなって思わず逃げようと身動ぎすると抱きしめる腕が強くなって、あたしとユーイチの体はくっついた。
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