スターチス
顎を掴んで上を向けさせられたときに見えたユーイチの顔は「なにやってんだ」って顔でちょっと怒ってて、そのまま涙を拭うのを再開した。
あたしはそれが恥ずかしくてしょうがないのに一向に止めてくれないユーイチにされるがままだった。
「あの」
「なに」
「あの、ユーイチ」
「なに」
話しかけても、返事に取れないイントネーションに困惑するあたしにユーイチはようやく手を止めてあたしを見下ろした。
「泣き止んだね」
そう言うと何事も無かったかのようにスッと手を離し「コーヒーもらってくね」と自分の部屋に戻った。
一体何が起こったんだろう、そんな感じだった。
今までは知らなかっただけで、あたしが眠ってしまったあとユーイチはずっとこうしていてくれたのかもしれない。
……なんて恥ずかしい!!
徐々に赤くなる顔を両手で押さえてソファに寝転んだ。
ユーイチはあたしに気遣ってあんなこと言ったんだろうけど、ユーイチも一人暮らしをしたいに違いない。
1年以上一緒に住んでるって言ったって赤の他人と一緒に住み続けるのはやっぱり嫌だと思うし、あたしの我が儘に付き合わせるのもおかしい。
振り返ってみれば、このルームシェアの間にユーイチは何度も“出て行きたい”と思っていたのかもしれない。
でも、次々と出て行くたびに泣くあたしを思って言えずにいたのかもしれない。
「引き止めてたのはあたしか」
気付くのがかなり遅かった。
最後の最後までユーイチを縛り続けてた。
今日もそうだ。
あたしが泣かなかったら、この話が出てたかもしれない。
『ルームシェア続けるよね?』
『俺はどっちでもいいけど』
この二つの言葉はあたしに“解散しようか”と言ってほしかったんじゃないか、と思った。
無愛想だけど優しいユーイチの事だから、またあたしに気を遣って言ったのかもしれない。