スターチス
「ねぇ」
「なに」
まさか、そんなことがあるとは思わないけど。
そうだとしたら本気でびっくりするけど。
あたしの言葉に死ぬほど嫌な顔をされる覚悟で聞いてみた。
「あたしのこと、引き止めてるの?…とか、まさかねー、あるわけないもんねー…て、ユーイチ?」
一瞬目を見開くからヤバイって思って冗談にしたのに、真顔になるから言えなくなった。
真顔っていうか、ちょっと目が泳いでる感じ。
まさかのビンゴ?
「あの、あたし冗談で」
「うるさい」
まさかの反応にどうしたらいいのかわかんなくて、あたしまでキョドッちゃってギクシャクした空気になる。
それでもそれが長く続いたのはあたしだけだったみたいで、ユーイチはすぐに元に戻って、いつもの冷たい目であたしを見てた。
「別に引き止めてるわけじゃない」
引き止めてないんだ。
直接言われると寂しいなぁ、と感じてしまう。
別に泣くほどじゃないけど、一番近くにいた存在だったって感じてるのはあたしだけかもしれないけど、それでも一番お世話になって一番長く一緒にいた人だから一番寂しく感じたっておかしくないはずなんだけど、こうして離れる話をしているのになんだかいつもの空気と少し違う。
その理由はわからないけど。
「俺はサチが泣かないなら、それでいい」
それさっきも聞いた、と言おうとしたけど、目が…ちょうど合った目があまりにも真剣で離せなくなった。
何を考えてるのかわからないのに、どうしてか今は熱くて、胸がキュッと締められた。
「サチが出て行くなら俺が出て行く。サチはここでいればいい」
「ユーイチ?」
「サチがそれを望むなら、俺もそれに従う」
「ユーイチ、ちょっと」
「でも、サチが泣くのは見たくない」
あたしが出て行くって言った意味をユーイチはわかってない。
あたしが出て行くって言ったのは、もちろんユーイチの迷惑になるからっていう理由も確かにある。
でも、もっとも重要なことは、それじゃない。
あたしが出て行きたいのは、この部屋にいると寂しく感じるから。
一人が寂しくなるから。
思い出の詰まったこの部屋に一人でいるのは寂しいから。
元々一人でいることが好きじゃないのに誰もいない部屋に一人でいると気が狂ってしまうと思ったから。
これからユーイチが部屋を探して、見つかって、この部屋を出るときが来る。
でも、その日はきっとあたし一人じゃいられないと思う。
迷惑だとわかっていてもソラ姉の家におしかけることになるだろう。
「泣きそうな顔してる」
あたしの頬をつねって真顔で言うか?って思ったけど、想像しただけでこれじゃあ先が思いやられる。
ユーイチが出て行きたくても、いつまで経っても出て行けない。