スターチス

「ちょっと、ユーイチ」

下から手を引かれて後頭部には手、引き寄せられて何度もキスを交わす。
今までの分を今埋めるように何度も何度も重ねる。

「嫌じゃないでしょ」
「…なんで言い切るのよ」
「だってソラが言ってた」

一瞬止まってユーイチが何を言われたのか考えて固まってしまう。
何度もいうように内容が内容なだけに変なことを言われてないか気になってしかたがない。

ユーイチがキスしてくれないから不安になってるとかだったらいいけど、ユーイチを欲しがってるみたいな言い方されてたら、一生の恥になる。

「…なんて言ってたの」
「俺が何もしないから恋人じゃないんじゃないかってサチが不安がってるって」
「それ、いつ?」
「ソラが帰ったあと。メールで」

ソラ姉のアドバイス内容にホッとした。
最悪のセリフを考えてただけに全身で表れた安堵をユーイチが見逃すはずもなく。

「他のこと考えてた?」
「え?!」
「あ、やっぱり」
「や、考えてないから…」
「俺は触ってほしいのかなって思ってたけど」
「え?!」
「そんな焦らなくても」

意地悪く笑うユーイチに焦るしかない。
この2ヶ月の間、そんなに全面的に欲求不満ですって顔に出してたのかと思うと穴に入るくらいじゃすまないくらい恥ずかしい。

欲求不満じゃなくて互いの距離感と気持ちに対する…っていう説明も全部欲求不満で片付けられちゃうと思えばもう目を合わせられなくなった。

「だって」
「うん?」
「だって、どこまで彼女らしくしていいのかわかんないじゃん」
「うん」
「今までルームメイトで急に両想いで二人で暮らすって、もうむちゃくちゃじゃん。そんなの臨機応変に動けちゃうほどあたしは器用じゃないし」
「うん」
「それにユーイチ忙しいし態度は相変わらずだし」
「うん」
「そんなのわかんないじゃん」
「うん、なんとなく伝わった」

ただ頷くだけで伝わったらしいあたしの気持ち。
体勢は相変わらずあたしはユーイチに後頭部を支えられて寝転んでるユーイチを見下ろしたままで視線は外してる。

この至近距離が恥ずかしいと思ってるのはあたしだけなのか、物理的に近すぎることにまさか気が付いていないのかはあたしにはわからないけど、あたしが話してる間もユーイチの視線を感じてる。

少し体を離そうとするとユーイチの手は簡単に離れ、あたしは元の体勢に戻った。
こんなことなら早く戻しておくんだったとまた恥をかいた。

「俺はサチが好きだけど」
「…うん」
「サチはどうなの」

どうなのって、そんな質問おかしい。

あたしの頬に手をあてて優しい目で見てる。
泣いてたあたしの隣に座ってた時のような目であたしを見てる。

こんな目を向けられてるのはあたしだけなんだって知ったときはどれほど嬉しかったかユーイチにはわからないと思う。

ずっとあたしを見てて、視線を合わさないあたしの手と頬を撫でて、そんなに優しくされたらあたしの心臓もたないぞ?!って言いたくなるくらい甘い雰囲気を醸し出してる。

あたしが望んでたのはこういうことだけど、何もかもが突然だし予想外で心の準備なんてそんな言葉がこの世に存在するのかってくらい焦ってるしドキドキしてる。

「サチ、答えて」

触れて握っていただけの手が絡み合うよう繋がれてさらにあたしの心臓は早くなる。
ユーイチがこんな風にあたしに触れるなんて思わなかった。

優しくて、恥ずかしくて、―――もっと触れたくなる。

「…あたしは、ユーイチに触れたいって、触れて欲しいって思うくらいには好き―――、」

続きはユーイチが起き上がってあたしに触れたから言えなくなった。

何度も交わして、さっきよりも深いキス。
交わすキスの音が恥ずかしい。
何度もキスを交わしながらユーイチが体勢を立て直して向かい合いながらも続くキスの嵐。

「サチ、どっちのベッドがいい?」

へ?!と真っ赤になりながら戸惑ってると、「聞くまでもないか」とあたしを立たせてユーイチの部屋に引っ張っていく。

「待って、ユーイチ明日仕事…」
「サチもじゃん」
「違うよ、疲れてるからと」
「意外とタフなんだよね」

ユーイチらしくない言葉に驚いただけど、見たことない黒い笑顔で抱き寄せられた。

部屋に完全に入ると閉じられたドア。
一体あたしはどうなるんだろうと期待と不安を感じながらもユーイチの言葉と誘惑に溺れていった。




END.
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