スターチス
結局、ソウさんとソラ姉が帰ったのは22時をまわった頃で、準備をしてもらったから片づけはあたしがして、少しの間だけ兄弟水入らずの時間を設けてから帰っていってしまった。
あたしとソラ姉は料理の話や生まれてくる子供の名前はどうするんだとか予定日はいつだとかそういう話をしていたから何を話していたかは知らないけど、ユーイチはやっぱり始終不機嫌な顔だった。
「やっと帰った…」
夜なのにコーヒーを入れてほしいと言うユーイチのためにコーヒーをたて、ユーイチはブラックを、あたしはミルクを入れて飲んだ。
ソファーに並んで座りいつも通りなんだけど、横から聞こえる溜息が重い。
「疲れたの?」
「疲れた。疲れた以外の何もない」
「ソラ姉のご飯美味しかったね」
「久々だったしな」
ほんと疲れた、とカップを持ったままあたしに寄りかかり、目をつぶったユーイチ。
仕事で疲れてるのに騒がしくしちゃったかな?と思った。
それにイブなのに4人で過ごしてしまった。
日曜日ももう1時間と少しで終わってしまう。
結局、今年も2人きりのクリスマスを過ごすことはなかった。
毎年のこと、と言えばそれまでなんだけど、付き合ったんだからそれっぽいことをしてみたかったけど、あたしとユーイチはやっぱりそうならないみたい。
いつまでも恋人らしい関係になれないっていうか、何か無意識にそうさせてるものがあるみたい。
それがあたし達らしいのかなーなんて思ってみたり。
なんとなく、カップを置いてユーイチの伸びた前髪をかき分けておでこに触れる。
ニキビも何もない綺麗な肌。
本当羨ましいくらいで、前髪をすくうと自分の前髪に付けてたピンを外してユーイチの前髪に留めた。
意外と可愛くてニヤける。
「女ってこういう遊び好きな」
目を開けてあたしを見ながら言うユーイチに「どこの女に同じことされたの?」と聞いてみると「バカ」と言われた。
「バカってなによー。ユーイチが言ったくせにー」
「サチこそ、どこの男にこういうことしたんだ?」
「なに、その言い方ー」
「サチと同じ言い方をしたんだけど」
遠回しにむかつくって言いたいんだろうか。
無表情のユーイチからは相変わらず感情は読めなくて、付けてたピンを外して自分の前髪に付けなおした。
小さく溜息を吐くと「なんだよ」と言われる。
「今日のユーイチ機嫌悪いよ」
「悪くない。悪くもなるけど」
「どっちなの?」
「今は悪くない」
「さっきは悪かったでしょ?」
さっきの“飯食って帰れ”のところを言ったんだけど、ユーイチは少し考えるそぶりをしてから「まあね」と答えた。
「なんで怒ってた?」
「怒ってない」
「なんで機嫌悪かった?ソウさんが言ってたこと?あたしとソラ姉が盛り上がりすぎてた?ソウさん混じってユーイチ放って話してたから?ソウさんが、」
「その“ソウさん”やめれ」
ユーイチが体を起して真正面から真顔で言うから、さすがのあたしも言葉が止まった。
自分のお兄さんの名前なのにやめれって一体どういうことなんだろう。