スターチス
「そんな嬉しい?」
「なんで?」
「だって、ずっと笑ってる」
「ユーイチは嬉しくない?」
ユーイチだって嬉しいよね、と思いながらキスをするためにユーイチに近付くと、突然鳴り始めた携帯。
テーブルの上に置いていたから響いたのとびっくりしたので肩が上がるほど驚いた。
鳴り続けているのはあたしの携帯。
ユーイチはあからさまに舌打ちをしてディスプレイに出てる相手を見て迷わず電話に出た。
「なに?」
不機嫌丸出しなのはその相手がソラ姉だから。
「それだけ?」「だから?」「は?」とあたしからしたらあり得ない返事をして、急に黙り込んだ。
ユーイチの態度にソラ姉が怒って、いつものごとく隙なく話し続けてるのかもしれない。
内容が気になってユーイチの高さに合わせて携帯に耳を近づけようとすると反対を向かれる。
ん?と思い追いかけると今度はソファーから立ちあがって逃げられた。
ソレあたしの携帯なんだけど!って思わず言っちゃいそうになる態度だったけど、ユーイチが真剣な顔して話を聞いてるもんだから黙ってソファーに座ってユーイチを見ていた。
「そうだろうな」
「それは今じゃないだろ」
「それはそっちの都合だろ」
ソラ姉の言葉に返答するしかないユーイチの言葉からは内容が掴めない。
あたしだってソラ姉と仲良しで色んなことを話してるし少しくらい予想が付きそうなのに全然わからない。
もういいや、と思ってソファーから立ちあがろうとしたらユーイチに止められて携帯を渡された。
「ソラが変われって」
ユーイチから携帯を受けとると「サチ?」とソラ姉の楽しそうな声が聞こえた。
「なに話してたの?」
≪それは秘密よ。指輪、もらった?≫
「うん。超可愛い」
自分の左薬指を見ながら話す。
≪そう、よかったわね。じゃあ今日はお邪魔しちゃってごめんね。またうちにおいで≫
「うん、ありがとう。また行くね。今日はご飯美味しかったよ!」
ソラ姉は≪またね≫と言って電話を切った。
結局、声を聞いただけで何を話していたか聞けず、いつものようにソラ姉のペースで話されて切られた。
携帯をテーブルの上に戻してユーイチを見上げる。
「ソラ姉、なんて言ってたの?」
「別にたいしたことじゃない」
「じゃあ教えてよ」
「教えるほどのことでもないから」
「いっつも教えてくれないよね」
別にいいんだけど、と本当はすごく気になるけど、しつこいのは嫌いなユーイチだから諦めるしかない。
テーブルの上に置いた携帯を手に取り、今日入ってきたメルマガをチェックする。
いらないメールは消して小さく溜息。
せっかくのイブもこんなことで空気を悪くしちゃダメだってわかってるのに、電話が鳴る前の自分に戻れない。
無言でボーっとテレビを見てるとコーヒーの匂いがしてユーイチが隣からコーヒーを差し出してくれた。
ありがとう、と受け取るとユーイチも隣に座る。
コーヒーの匂いに落ち着きを取り戻せた気がして、隣のユーイチを見るとユーイチもあたしを見てた。