スターチス
真実 × 蓮【完】
強引な彼
あたしは好きな人にもうかれこれ2年は片想いしていて今だに想いを言えずにいる。
その理由はもちろん“彼女”の存在。
付き合っては別れ、付き合っては別れ、あたしが知るだけでも二桁は軽く超えてる。
よく女の子に刺されないな、と思うのが正直な気持ちだけど、そんなこと口が裂けても言えない。
「あ、またそんな顔する」
「どんな顔よ」
放課後の教室。
委員会で遅くなる友達を待っていたら偶然通り掛かった蓮が教室に入ってきた。
「来なくていいよ」と言ったのに「いてほしいくせに」と言っちゃうあたり自意識過剰で参る。
だけど、そんな彼が好きなんだ。
「俺が彼女と別れたの知ってる?」
机に肘をついて外を眺めるあたしからは彼が見えない。
だけど斜め前に座っている彼との距離が意外と近くて静かな教室に響く声にいちいち心臓が反応する。
「知ってる。でもどうでもいい」
「なんだよ、その反応」
寂しいじゃん、と席を立ってあたしが座る前の席に移動してきた。
なんでこっち来るのよ?!と内心焦りドキドキしながらも、それが出ないように視線だけで彼の行動を見てた。
「“どうでもいい”とか言いながら実は・・・?」
「何を求めてんのよ」
あっさりかわすと「響けよ!」と怒られた。
あたしの気持ちも知らないでよくそんな冗談が言えるもんだわ、と気持ちを伝えてもないくせに何様なんだって思われそうだけど。
このタイミングで“実は好き”って告白しろって事なのか?って言いたくなる。
「なぁ」
「なに?」
「隣のクラスの遠藤って奴がお前のこと気になるって言ってたぞ」
あたしが蓮をどう思ってるかなんて蓮には関係なくて、蓮だって聞いてこない。
あたし達は友達でこうして話す仲で特別な関係ではないから。
そう言い聞かせてあたしはこの気持ちに蓋をしてきた。だから蓮が他の男の子を勧めるような話をするのも別におかしくない。
あたしが蓮を好きであっても、だ。
「そう」
「そう、って興味ないの?」
「ないね。そもそも遠藤くんって知らないし」
「お前、男に興味なさそうだもんな」
青春謳歌しないと損だぞ?と笑顔で言われて、その笑顔にドキリとする。
無防備に笑われると心臓に悪い。
早まる心臓の存在に気付かれないように蓮から視線を逸らし外を見た。
綺麗な夕焼けが一面に広がってた。
「例えば、例えばの話だ」
なぜか急に例え話を持ち出しはじめた。しかも、余裕ぶって片肘ついて面白そうに笑ってる。
どんな表情を見てもトキめいてしまう重症な心臓のせいでまた視線は外だけど「うん」と言って先を促した。
「例えば、俺が今ここでお前に告白する」
「はぁ?」
まさかの言葉のチョイスに思わず蓮を見た。
「まぁ落ち着け、例え話だ。俺がお前に告白して返事を明日に持ち越す。で、例の遠藤くんが明日お前に告白してくる。さて、お前はどっちを選ぶ?」
急に何を言い出すかと思えば、一番ありえない例え話。
例え話にしては嬉しすぎて、でも一番現実味がない夢のような例え話。
あまりに酷くて冗談がキツすぎる例え話に鼻で笑っちゃうほど切なくなる。
「あのね」
「あー、待て待て。二者択一だから“どっちも選ばない”は無しだからな」
にっこり笑う蓮の後ろに悪魔が見える。
究極の選択を迫られて、遊ばれてる感じが嫌だ。
「さぁ、どっちを選ぶ?」
両手を出して外人みたいなジェスチャー。
にこにこ笑って馬鹿みたい。
あたしの答えはもちろん決まってる。
だけどこれは“例え話”で現実の話をしてるわけじゃない。
こんな状況であっさり暴露しちゃうほど、あたしも馬鹿じゃない。
蓮を選んで笑われてからかわれるのは目に見えてる。本気の想いを流されてかわされるのはキツイ。
だから、
「そりゃ遠藤くんだね」
出来る限りの笑顔で答えてやった。
あんたの事なんて1ミリも考えちゃいないって言ってやるように。
「マジ?遠藤くんが超ブサイクでも?」
「それは例え話に入ってなかったよ」
「馬鹿か、お前は。そんなの初対面の男なんだからどんな奴が来るかわかんないだろうが」
「それでもあたしは」
「いや、それは嘘だな。お前は俺を選ぶ、違うか?」
何言ってるんだろう、この男は。
開いた口は塞がらないし、瞬きだって出来ない。
確かに間違ってはいない。
蓮が本気で言ってるなら迷わず蓮を選ぶけど、そうじゃないんだから選択はあたしの自由。
それを何を根拠に“俺を選ぶ”って、そんな自信どこから湧いてくるんだろうか。
「自意識過剰も程々にしなさいよ」
「違う、俺は自意識過剰じゃない。お前がそう言ってる」
あたしの気持ちを見透かしたような言い方に自然に眉が寄ったのがわかった。
女をころころと変える男に言い切られる自分にも呆れるけど、言い切ってしまう蓮にも呆れる。
「・・・残念だけど、」
「俺が本気だって言ったら?」
普段見ない真剣な瞳に心が揺れる。
信じちゃだめだってわかってるのに蓮の瞳にのまれそうになる。
「黙るって事は当たってるってこと?」
ゆっくりと蓮の手が近付く。
逃げようとした時には遅かった。
「帰るぞ」
「は?!」
「ゆっくり話つけようか」
蓮はあたしの鞄を持ってさっさと教室を出てしまう。
「だって待ってるって」
「急用出来たってメール送れ。小学生じゃないんだから一人で帰れるだろうが」
「そういう意味じゃない!」
「わかった、明日俺が説明してやる。だから帰るぞ」
しまいには手を引かれて強引に歩かされる。
冗談なのかどうかわからない連の行動にどうすればいいのかわからないあたしはされるがまま。
この男を止める方法をあたしは知らない。
「なんだか、わくわくするな」
楽しそうに笑う蓮にドキドキするあたしも既に手遅れなんじゃないかという敗北感。
暴れる心臓を必死に抑えることでいっぱいで、やっぱり勝てないことを痛感して“ずっと振り回されるんだ”と先の未来に不安になった。
END
その理由はもちろん“彼女”の存在。
付き合っては別れ、付き合っては別れ、あたしが知るだけでも二桁は軽く超えてる。
よく女の子に刺されないな、と思うのが正直な気持ちだけど、そんなこと口が裂けても言えない。
「あ、またそんな顔する」
「どんな顔よ」
放課後の教室。
委員会で遅くなる友達を待っていたら偶然通り掛かった蓮が教室に入ってきた。
「来なくていいよ」と言ったのに「いてほしいくせに」と言っちゃうあたり自意識過剰で参る。
だけど、そんな彼が好きなんだ。
「俺が彼女と別れたの知ってる?」
机に肘をついて外を眺めるあたしからは彼が見えない。
だけど斜め前に座っている彼との距離が意外と近くて静かな教室に響く声にいちいち心臓が反応する。
「知ってる。でもどうでもいい」
「なんだよ、その反応」
寂しいじゃん、と席を立ってあたしが座る前の席に移動してきた。
なんでこっち来るのよ?!と内心焦りドキドキしながらも、それが出ないように視線だけで彼の行動を見てた。
「“どうでもいい”とか言いながら実は・・・?」
「何を求めてんのよ」
あっさりかわすと「響けよ!」と怒られた。
あたしの気持ちも知らないでよくそんな冗談が言えるもんだわ、と気持ちを伝えてもないくせに何様なんだって思われそうだけど。
このタイミングで“実は好き”って告白しろって事なのか?って言いたくなる。
「なぁ」
「なに?」
「隣のクラスの遠藤って奴がお前のこと気になるって言ってたぞ」
あたしが蓮をどう思ってるかなんて蓮には関係なくて、蓮だって聞いてこない。
あたし達は友達でこうして話す仲で特別な関係ではないから。
そう言い聞かせてあたしはこの気持ちに蓋をしてきた。だから蓮が他の男の子を勧めるような話をするのも別におかしくない。
あたしが蓮を好きであっても、だ。
「そう」
「そう、って興味ないの?」
「ないね。そもそも遠藤くんって知らないし」
「お前、男に興味なさそうだもんな」
青春謳歌しないと損だぞ?と笑顔で言われて、その笑顔にドキリとする。
無防備に笑われると心臓に悪い。
早まる心臓の存在に気付かれないように蓮から視線を逸らし外を見た。
綺麗な夕焼けが一面に広がってた。
「例えば、例えばの話だ」
なぜか急に例え話を持ち出しはじめた。しかも、余裕ぶって片肘ついて面白そうに笑ってる。
どんな表情を見てもトキめいてしまう重症な心臓のせいでまた視線は外だけど「うん」と言って先を促した。
「例えば、俺が今ここでお前に告白する」
「はぁ?」
まさかの言葉のチョイスに思わず蓮を見た。
「まぁ落ち着け、例え話だ。俺がお前に告白して返事を明日に持ち越す。で、例の遠藤くんが明日お前に告白してくる。さて、お前はどっちを選ぶ?」
急に何を言い出すかと思えば、一番ありえない例え話。
例え話にしては嬉しすぎて、でも一番現実味がない夢のような例え話。
あまりに酷くて冗談がキツすぎる例え話に鼻で笑っちゃうほど切なくなる。
「あのね」
「あー、待て待て。二者択一だから“どっちも選ばない”は無しだからな」
にっこり笑う蓮の後ろに悪魔が見える。
究極の選択を迫られて、遊ばれてる感じが嫌だ。
「さぁ、どっちを選ぶ?」
両手を出して外人みたいなジェスチャー。
にこにこ笑って馬鹿みたい。
あたしの答えはもちろん決まってる。
だけどこれは“例え話”で現実の話をしてるわけじゃない。
こんな状況であっさり暴露しちゃうほど、あたしも馬鹿じゃない。
蓮を選んで笑われてからかわれるのは目に見えてる。本気の想いを流されてかわされるのはキツイ。
だから、
「そりゃ遠藤くんだね」
出来る限りの笑顔で答えてやった。
あんたの事なんて1ミリも考えちゃいないって言ってやるように。
「マジ?遠藤くんが超ブサイクでも?」
「それは例え話に入ってなかったよ」
「馬鹿か、お前は。そんなの初対面の男なんだからどんな奴が来るかわかんないだろうが」
「それでもあたしは」
「いや、それは嘘だな。お前は俺を選ぶ、違うか?」
何言ってるんだろう、この男は。
開いた口は塞がらないし、瞬きだって出来ない。
確かに間違ってはいない。
蓮が本気で言ってるなら迷わず蓮を選ぶけど、そうじゃないんだから選択はあたしの自由。
それを何を根拠に“俺を選ぶ”って、そんな自信どこから湧いてくるんだろうか。
「自意識過剰も程々にしなさいよ」
「違う、俺は自意識過剰じゃない。お前がそう言ってる」
あたしの気持ちを見透かしたような言い方に自然に眉が寄ったのがわかった。
女をころころと変える男に言い切られる自分にも呆れるけど、言い切ってしまう蓮にも呆れる。
「・・・残念だけど、」
「俺が本気だって言ったら?」
普段見ない真剣な瞳に心が揺れる。
信じちゃだめだってわかってるのに蓮の瞳にのまれそうになる。
「黙るって事は当たってるってこと?」
ゆっくりと蓮の手が近付く。
逃げようとした時には遅かった。
「帰るぞ」
「は?!」
「ゆっくり話つけようか」
蓮はあたしの鞄を持ってさっさと教室を出てしまう。
「だって待ってるって」
「急用出来たってメール送れ。小学生じゃないんだから一人で帰れるだろうが」
「そういう意味じゃない!」
「わかった、明日俺が説明してやる。だから帰るぞ」
しまいには手を引かれて強引に歩かされる。
冗談なのかどうかわからない連の行動にどうすればいいのかわからないあたしはされるがまま。
この男を止める方法をあたしは知らない。
「なんだか、わくわくするな」
楽しそうに笑う蓮にドキドキするあたしも既に手遅れなんじゃないかという敗北感。
暴れる心臓を必死に抑えることでいっぱいで、やっぱり勝てないことを痛感して“ずっと振り回されるんだ”と先の未来に不安になった。
END