スターチス
「蓮、いい加減にして」
「ヤダ」
「さっきからヤダヤダって言うけど、あたしは蓮と遊んでる女の子みたいに納得しないから」
「納得しなくていいけど」
「だったら、」
「でも俺が離したくないんだけど」
「わかってるわよ。だから離さないんでしょ」
「違う。“お前を”離したくないの」
ほら、まただ。
“お前を”を強調して戸惑わせる。
こうやって心拍数上げて期待を持たせて一気に突き落とされる。
恋愛感情のカケラも無いくせに例え話はするし期待を持たせる発言はするし。
もう何度目かわからない溜息を吐いて俯いた。
あたしはどう答えればいいんだろう。
どう言えば蓮はあたしに構うのをやめてくれるんだろう。
あたしが告白したら?
でも好きだと言えば、きっと笑われて傷つく。
それでも蓮のことはきっと嫌いになれないし最悪の告白として残っていくんだろう。
そんなこと人生の一瞬のことだって未来の自分が言えるようになったとしても今のあたしはそんなこと言えない。
「真実?」
蓮が俯くあたしに一歩近付いた。
あたしは一歩下がる。
「なんで下がるんだよ」
なんでだろう。
近付くのが嫌だからかも、とは言えない。
「お前、俺のこと好きなんじゃないの?」
はい?!とあたしの頭が勢いよく上がる。
一体どっからの自信なのかわかんないけど、気付かれてたのかもしれない事態に焦る。
異常に目が泳いでいたのか「やっぱりな」と微笑まれてさらに焦る。
鞄がグッと引っ張られて、あたしも引きずられるよう前に進む。
もう一度引っ張られて最悪なことに蓮の目の前まで来てしまった。
「やっと手に入ったと思ったら俺を避けるし、あの日以来態度悪いし」
「・・・それはあんたが、」
「ほら、名前で呼ばないし」
「…今そんなこと関係ない」
「ほら、それ」
首を傾げてあたしを見る仕草に不覚にもドキリとしながら視線を下げることなく蓮を睨む。
今までの2年間、蓮が女の子をとっかえひっかえしていた蓮をずっと見てきた。
今までどれだけの女の子が蓮のせいで泣いてきたのか嫌ってほど見てきてる。
それを見てきたのに今さら蓮を信用できるはずない。
ついこの間まで付き合っていた彼女だってすぐに別れた。
別れるために付き合う恋愛ならいらないし、その一瞬のためだけに蓮の傍にいるなら諦めて前に進むほうがマシ。
このまま蓮に本当の気持ちを伝えられなくても、そういう形で叶ってしまうなら言わないまま綺麗な思い出にしまうほうが断然いい。
「悪いけど、蓮のこと信用できないから」
「なんで?」
「女の子とっかえひっかえだった蓮を信用できると思う?」
「できない?」
「できるわけないでしょ?あたしは“蓮に振られた子”の一部にはなりたくないの。蓮にはわかんないだろうけど、振られた女の子の気持ち考えたことあんの?」
「真実」
「あたしは蓮みたいに冗談で付き合うことなんで出来ないの。あたしにはそういうこと言ってこないって思ってたけど、ほんと…」
最低だよ、て続けるつもりだったのにもう堪え切れなくて涙が出た。
これを言ったら終わりだって、友情も恋心も終わりだってわかってたのにとうとう言ってしまった。
鞄を掴んでた手も力なく離れて、泣き顔を見られたくなくて俯いた。
立ってられなくなって、しゃがみこんだ。
膝におでこをくっつけてできるだけ声を出さないように泣いた。
今まで溜まりに溜まってた涙はきっと止まらない。
あたしの名前を呼んだのは聞こえたけど、もう止まらなかった。
本音だけど、言うべきじゃなかった。
こんなことあたしに言われたってどうしようもない。