スターチス


過去の話をする彼にこの再会はどういう意味を持つのか、再会した日に感じた胸の鼓動は久しぶりの再会だったからにしても“会いたい”の四文字はどういう意味なのか、ただの再会を喜ぶだけなのか。

あの頃、あたしが好きな気持ちを殺して手放した目の前にいる彼はあの頃と変わらずあたしの前に座って昔話を楽しそうに話す。

「未央」
「うん」
「俺のことまだあの頃のままだと思ってる?」
「…うん?」
「未央が好きだったけど過剰になりすぎたくなくて学校では距離置いてたのが結局裏目に出た。未央は俺が無理矢理付き合ってたと思ってもしょうがないと思う。でも、」
「葉ちゃん」

なんだか聞いていたくなくて名前を呼んで止めた。
タイミングよく料理が運ばれてきてよかった。
部屋を出るバイトの子が少し気まずそうな顔をしていたから相当入りにくかったのかもしれない。

「食べよっか」
「…だな」

こういう話をしに来たのは正直想定内ではあった。
でも昔の話は何度話しても戻れないし現在(いま)には必要ない。

あの頃は高校生だったし今となっては高校生の恋愛なんて青春の一部。
今更気にする事でもないし気にする必要がない。

社会人になった今、必要なのは今のあたし達が高校生の頃と同じように同級生として過ごしていくのか今日で終わりになるのか。
それ以外にも気にしなきゃいけないことは山ほどある。

ただあの頃みたいに勉学に遊びに…っていうだけでは生きていけない。

「葉ちゃん」

名前を呼んで顔をあげた葉介。
でもあたしは目を合わさなかった。
目を合わしたら見た目も中身も男の人になった葉介に流されるような気がしたから。

「昔話はね、思い出なんだよ。高校生の時の恋愛って通過点だと思う。あたしと葉ちゃんの恋愛はうまくいかなかったけど楽しかったし、あの時はあれがベストだとあたしが判断したの。あたしが判断して勝手に動いたの。あの頃の葉ちゃんをどう思っていたかなんて言ったところで今更修正はきかないんだよ」
「でも俺はあのとき、」
「あえて言うとすれば、どっちもよくなかったんだよ。あたしもちゃんと自分の気持ちを言えなかったし葉ちゃんに聞かなかった。でももうどうでもいいと思うよ、あの頃の話は。もう5年も前だよ」

顔をあげると苦笑した葉ちゃんがいて「そうか」と小さく呟いた。

「俺だけがまだ引きずってる」

そう言うとお箸を置いてあたしを真っ直ぐに見た。

「俺はすごく後悔したんだ。それでもまだ好きで卒業する時も最後に声をかけたかったけどそれも出来ないくらい未央が好きだった。就職して忙しくしててもどうしても忘れられなくて、前回の同窓会の時に未央がまだ街を離れていないって聞いて期待した。会えるかもって。でも未央は周りの奴と繋がってなくて詳しい情報が全然入らなかったから半ば諦めてたのに来たんだよ、ココに。綺麗になって雰囲気も変わって俺の存在には気付かなかったけど、俺は絶対そうだって思った。運命だと思った、本気で。もう一度やり直したいって思ったんだよ」

運命か…そんな言葉を言えるような年齢になったのかな、なんて少し思った。

あたしは葉ちゃんが好きだったから高校生なりにこれが運命なのかって思ってた。
今から思えば可愛い恋愛感情だったと思う。
世界中で一番好きなのは葉ちゃんだった。
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