スターチス

ミキ兄はゆーくんのことを“高校で出会った一番の友達だ”って紹介してくれた。

ゆーくんは初めて会ったときから優しくて、まだ小学生だった私を可愛がってくれた。
今は私も大学受験を控えるくらい成長したし、ゆーくんだって来年は社会人になる。

だからどうなんだって話で、私はゆーくんにとって“ミッキーの妹でカテキョの生徒”であって、ゆーくんは“ミキ兄の友達で私のカテキョ”ってだけで特に何もない。

マンガみたいに“お兄ちゃんの友達に恋しちゃった!”なんてこともない。
もちろん、その逆だってないし、それはゆーくんだって同じ。

……なんて言いたいけど、本当は違う。
だけど、これはミキ兄と私だけの秘密。

「妹に勉強教えるみたいな?」

ちゃんと考えて答えてみると「半分正解」と、ゆーくんは笑う。

「あと半分は、」
「別に聞きたくないから早く勉強教えてよ」

言葉を遮って、体の向きも変えてシャーペンを持つ。

ゆーくんとの付き合いで私の経験から、ゆーくんの話は長い。
それもちょっとやそっとの長さじゃない。
もう日が暮れちゃうよ?!ってなるくらい延々と話す。
特に今みたいに得意げな顔をしたときは要注意だ。

「ちず」
「なに?」
「先生命令は?」
「先生、生徒が勉強したいって言ってるんだから教えるべきなんじゃないですか?」

ゆーくんを見ずにそう言うと「しかたないな」と呟いて諦めたように溜息を零した。

それから数分、あたしは問題を解いて勉強してたけど、向かい合ってた体を元に戻したのは私だけでゆーくんはずっと私の方を向いてた。

私じゃなくて問題を見てって言っても嫌だって言って、ずっと私を見てた。
気が散ってしょうがない上に髪に触れてくる。
「髪細いな~」とか「くるくるだな~」とか言いながら触ってくるから、その手を払いのけたり避けたりするとクスクス笑う。

こっちが真剣に勉強しようとしてるときに限って私で遊ぼうとするのは4年前から変わってない。
空気が読めないのは治らないらしい。

「ゆーくん、私で遊ぶのやめて」
「嫌。だって可愛いんだもん」
「意味わかんないから」
「ちずは可愛いよ」

さすがの私も動かす手を止めて、わかりやすく溜息吐いた。
シャーペンを置いて、再度ゆーくんと向き合う。
ゆーくんはニコニコしながら私を見てる。

「ゆーくん」
「なぁに?ちず」
「勉強の邪魔するなら帰って」
「はぁ?!それはダメ」
「なんで?」
「夕飯食べて帰るっておばさんに言ったもん」

なんて自由なの?!と思ったけど、ゆーくんだから仕方ない。
うちのお母さんもゆーくんが大好きで自分の息子のミキ兄より可愛がる。
何かあればミキ兄よりゆーくんを呼びつけてしまうくらい。

「うちに嫁いできたりしないでよ」
「ちずがもらってくれるんだ?!」
「もらわないから!!」

嬉しそうに目を輝かせたゆーくんに驚いた。

冗談やめてほしい。
ていうか、ミキ兄早く帰ってきて。

ミキ兄が帰ってきてくれたら家庭教師が二人になって私の時間が出来る。
二人が話している間に私が問題を解いて、わからなくなったらどっちかに聞く。
それがいつものパターンで、こんな風にゆーくんに遊ばれたり邪魔されることもない。

「ミキ兄、まだ帰らないのかな…」
「今日は遅くなるって」

あたしの髪をいじりながら即答するゆーくん。
ミキ兄のことなら何でも知ってるんだな、と感心する。

「ミキ兄に嫁にもらってもらえばいいんじゃない?」
「え~?!俺はちずがいい」

私がいいと言ったゆーくんは私が呆れてるのをよそに横から私を抱きしめた。
抱きしめたというか、足の間に収めた。

「なにすんの」
「ん~、久しぶりじゃない?」

確かに4年前はゆーくんの胡坐の上に座ってミキ兄と向かいながら二人の会話を聞いてた。

お母さんがそれを見て「なにやってんのよ、子供みたいに」と呆れてたけど、私からじゃなくゆーくんが私を自分の上に乗せてたから座ってただけで悪く言えばゴツゴツした椅子代わりだった。

「なんかね、ちず見てるとギューッってしたくなるんだよね」

そう言って今度は後ろから抱きしめられた。

私のお腹に回される腕、肩に置かれる顎、背中に感じるゆーくんの温もり。
てか、この状況ってどういう状況なんだろう?
< 74 / 82 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop