スターチス
「いつもの店だね」
待つのが嫌いな祐介のために最速で準備したあたしは祐介の機嫌を損ねることなくディナーへ向かった。
行き先は祐介のお友達が経営してるフレンチレストラン。
店長の木藤さんがすごくスマートで祐介には無い爽やかな笑顔で迎えてくれる。
「いらっしゃいませ。あれ、祐介じゃないか。久しぶりだな。世津さんもお久しぶりです」
頭を下げて迎えてくれた木藤さんは頭を上げると同時にキャラを変え、親しい友人を迎える口調に変わった。
祐介を名前で呼ぶ人はかなり少ない。
それでわかるのは木藤さんが祐介の心を許す友人であるということ。
仕事が特殊なだけにあまり深く付き合おうとしない祐介の数少ない友人の一人。
「予約してないけど大丈夫か?」
「あぁ、今は落ち着いてるから空いてる席でいいなら」
「それでいい。いつも悪いな」
木藤さんが「どうぞ、こちらへ」と席に案内してくれる。
いつも予約をしないで突然やって来る迷惑な客なのに、いつも快く案内してくれる。
言ってくれれば予約取ったのに、と祐介に小声で言うと「電話しても起きなかったお前が悪い」と一蹴されて何も言えなくなってしまった。
どうやらあの2通目のメールは焦ったんじゃなく、予約する時間を決めたかっただけのメールだったらしい。
「別にいいけどね」
「なんか言ったか?」
「言ってない」
結局、あたしの行動で祐介が焦ったりするようなことは一つもなく、いつも不安や孤独を感じてるのはあたしだけ。
結婚して籍を入れても10歳の差は埋まることなく、いつもあたしは愛情に飢えた子供のように祐介にすがってる。
籍を入れたことで少し安心感は覚えたものの不安が無くなったわけじゃない。
彼氏から旦那に変わっても、彼女から嫁に変わっても、安定した日々を送っていても安心感が続く日はない。