スターチス


「よかった!楽しかった!!イルカ大好き!!!」

興奮したあたしと、そんなあたしを「可愛いー!」と言いながら抱きしめてくれるゆーくんと微笑んでくれるミキ兄と宏奈さん。

本当に今日は楽しかった。
ずっと触りたかったイルカにも触れたし、アシカに触ってエサをあげることもできた。
ゆーくんと一緒にいれたし、ずっと手を繋いでいられた。
いつもより距離が近くてやっとデートらしいデートができて嬉しかった。

「今日って旅館だったっけ?」
「いや、ホテル」

ミキ兄が全部手配してくれて、宏奈さんが全て把握してくれてるからあたし達は何も知らないけど、今日はホテルでお泊りらしい。
晩ご飯はさっき美味しいって評判の居酒屋さんで食べてきたから満腹状態。
ゆーくんは相変わらずあたしに寄り添って寝てる。

「部屋ってどうなってんの?」
「二部屋取った」
「え?」
「もちろん、ちずは宏奈と一緒だから」

ミキ兄の言葉をホッとしたのと残念な気持ち半分で聞いた。
ゆーくんと二人だったらどうしようって思った。
初めての泊まり?!ってことと、まさか今日が初めての…ってことも一瞬だけど想像してしまった。
それも一瞬だったけど。
あの“え?”の一瞬で思ったことだけど。

ホテルに着いて宏奈さんと部屋に入って互いに部屋着に着替えたところで「ちずちゃん」と呼ばれた。

「はい?」
「部屋、遊久くんとがよかった?」
「…どうしてですか?」

まさか宏奈さんにそんな質問されると思ってなかったから返事が遅れた。

「んー、初めての旅行だから?」
「そこ聞いちゃうんですか?」

聞いてみたもののはっきりしてないらしい宏奈さんにくすくす笑ってると宏奈さんも笑ってくれた。

「遊久くんはすんごい残念がってたけど、タイミングとしては今じゃないし」
「まぁ、そうですね」
「私としてはね、初めては大切にしてほしいと思うの。ちずちゃんは遊久くんが好きで遊久くんは見てるだけでわかっちゃうほどだから、お姉さん的には十分だと思うんだけど」
「・・・はい」
「さすがにミッキーのいる時には可哀相っていうか」

宏奈さんもミキ兄のことを想って言ってくれてるんだろう。
困ったような顔して話してくれるけど、宏奈さんだってミキ兄と一緒に過ごしたかったはずなのに、あたしたち兄妹のせいで振り回されてる。

「宏奈さんもミキ兄と一緒に過ごしたかったのに、ごめんなさい」
「いやいや!私はいいのよ。樹祐(みきひろ)と一緒に過ごせただけで嬉しいから。それにちずちゃんと恋バナしてみたかったんだ」

可愛い顔で嬉しそうにそう言ってくれる宏奈さんは本当に優しくて好きだ。

「ちず!!」

いきなりドアが開いて、ゆーくんが入ってきたと思ったら思い切りダイブしてきた。

「ゆーくん、痛い」
「ちず可愛い~」

あたしを抱きしめて甘えてくる。
本当付き合ってからは誰が周りにいようともこうして甘えてくる。
目の前に宏奈さんがいててもお構いなし。
苦笑するしかない宏奈さんもこんなあたし達にツッコむことなく後から入ってきたミキ兄を招きいれた。

「お前、ちょっとは抑えろよ。仮にも俺の前だぞ」
「それよりもちずに触れたい欲求の方が勝っちゃうんだよねー」

腕枕されたあたしは背後のゆーくんの好きにさせたままテーブルでお酒を飲んでるミキ兄たちを見てた。

こうしてることが当たり前になりつつあたしも洗脳され始めたのかなってちょっと思う。
こうして寝転んでくっついてるのは初めてだけど何の違和感もない自分にそう思った。
これで向かい合わせになっちゃったらミキ兄に怒られるからしないけど、ほんとは向かい合って寝転んでいたいと思う自分もいる。

「ちず~、結婚しようよー。そしたらずっと一緒にいられるよ?」

出た、“結婚しようよ”発言。
あたしの腰を引き寄せて密着する。
あたしの頭にゆーくんの唇が触れて息がかかる。
それだけでドキドキする。

それにしてもミキ兄がいる前で堂々と言っちゃうゆーくんは本当にツワモノだと思う。
眉間に皺寄せちゃうミキ兄とそれに苦笑する宏奈さん。
あたしは黙って聞き流すフリ。

「遊久」
「なに~?」

あたしを抱きしめたままのゆーくんはミキ兄に返事をしながらもあたしへのちょっかいをやめない。
頭にちゅっちゅして手はいわゆる恋人繋ぎ。

「遊久」
「なにさ~?」

椅子から立ち上がり、あたし達の目の前に来たミキ兄。
すんごい怒った顔であたしとゆーくんの仲を裂いた。

「ミッキー、なんで邪魔すんの!」
「今すぐちずから離れないと閉め出す」
「え~?!自分はひろっぺと仲良くやってるくせに!!」

ミキ兄の真横に座らされたあたし。
これで完全にゆーくんはあたしに近づけなくなった。

苦笑する宏奈さんとブーブー文句を言うゆーくん。
少しお怒り気味のミキ兄の機嫌を取りながら、この先も長い道のりになるんだろうなと思った。



END.
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