陽だまりの林檎姫
1章 主とボディーガード
1.探しモノは何ですか
ドキドキする。
そう心の中で呟いて胸元に手を当てた。
何人かいたこの広い部屋にはもう誰もいない、おかげで他の人の名が呼ばれる度に早まる鼓動はとっくに最高潮に達していた。
「落ち着け。」
そう自分に言い聞かせて深呼吸を繰り返す。
自分なりの精一杯できちんとした格好をしてきた、でも場違いな気がしてありもしない周りの視線を気にしてしまう。
人は人、自分は自分。
そう分かっていても緊張が勝ってなかなか冷静さを取り戻せない。
「栢木アンナさん。」
「は、はい。」
名前を呼ばれて立ち上がった。
品のある案内係りに連れられた部屋の前でまた深呼吸を繰り返す。
「失礼します。」
声をかけの合図に叩いてからゆっくりと扉を開ける。
廊下の重く薄暗い雰囲気とは違い、広い部屋の中は陽の光で明るく照らされていた。
中央に置かれた長机にはいかにも大役を担っていそうな重鎮たちが並んで座っている。そしてその前に置かれた一脚は自分が座る席だろうと静かに理解した。
「お名前をお聞かせ願えますか?」
末席に座る一番若い男性がにこやかに微笑む。
その声に背筋を伸ばし、顎を引いて覚悟を決めた。
「栢木アンナ、と申します。」
彼女はたった今、生きていく為に勝負をかけたのだ。
これは、はじまりの物語。
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