陽だまりの林檎姫
「あら、ミライ。」

「マリーさん。栢木、おかえり。」

使用人の食堂には栢木と同じ年頃の給仕係り、ミライが夕食の下ごしらえをしていた。

職歴としては栢木の何年か先輩にあたるが一番仲よくしている相手でもあるのだ。

「ただいま。」

当然の様にミライの前の席に座ると彼女の手元を不思議そうに眺めた。

「エンドウの筋取り?おもしろそう。」

「集中する作業って結構好きなのよね。」

満足げに笑みを浮かべるミライの目の前には処理が終わったエンドウが山積みにされていた。

どうやら作業もほとんど終わっているようだ。

まだ未処理の1つを掴んで栢木も見よう見真似でやってみた。簡単なようで意外とコツがあるらしい。

「今日はどこまで行ってきたの?」

「ハチリ大学近くのカフェテリアで不機嫌そうに座ってた。」

「げ。そんな遠くに行ってた訳?毎度毎度よく見付けてこれるわね。」

「毎回必死にやってるの。」

「ほえー。」

眉を大げさに上げてミライは含んだような表情で何度も頷いた。

「うんうん、愛の力だ?」

おもしろそうに笑みを浮かべると慣れた手付きでエンドウをさばき、その流れで人差し指を突き付ける。

またいつものからかいに栢木は呆れ顔でなんとか出来たエンドウを差し出した。
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