陽だまりの林檎姫
「次の楽しみが出来た。くれぐれも事を起こすときは儂に報せるように。頼んだぞ?」

「はい。ワタリ公爵。」

最後の最後に可愛くない言葉を発した北都はどこかしたり顔だ。

生意気な研究者の攻撃を受けても不敵に笑うだけでミズキは背を向けて手を振り去っていった。





「ごめんね、失敗しちゃって。」

両手を顔の前で合わせて心底申し訳なさそうに栢木は謝罪の意思を示した。

「ははは。構わないさ。」

そう言って微笑むと御者は手を挙げて栢木の言葉に応える。

「栢木のおかげで随分と仕事が早く回っているように思うよ。さ、気にせず北都様を探してきてくれ。」

「ありがとう、休んで待ってて。」

余計な気を遣わせないようにと手で行くように促す御者の気持ちが有難い。

栢木は笑みを返し今度は自分が手を挙げて応えるとそのまま目的の場所へと走って行った。

目的の場所、それは目的の人物がいるであろう講演会の会場である。

「全く、あの人は。」

疲れと憤りと悔しさから悪態が出てしまうのは仕方ないだろう。

ちょっと余所事をしている間に居なくなってしまった主人を探すため、栢木はずっと新聞を手に馬車で駆け回っていたのだ。

同じ屋敷の中に居たというに逃げられたことが悔しい。

そして今日は誰にとって運がいいのか別の場所で2つの講演会があり、賭けに出た場所が外れてしまったのだ。

これには悔しい気持ちよりも無駄足をさせてしまった御者への申し訳ない気持ちが栢木を沈ませる。

こうなったのも全て北都のせいだ。

見付けたら思い付く限りの文句を言おうと栢木は鼻息荒く会場への道のりを進んでいった。
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