陽だまりの林檎姫
もう移動をしている可能性の方が高いが念には念を入れておきたい。

しかしふとガラスに映った自分の姿が目に入り栢木は足を止めてしまった。

今日の栢木は一味違う。

中身や気持ちの問題じゃなく、見た目で違うのだ。

「うん、大丈夫。」

手で髪を整えて満足そうに笑う、そんな彼女の姿を見ていた人物に背後から声をかけられた。

「イメチェンですか、お嬢さん。」

聞き覚えがある声に栢木の心が震えて勢いよく振り返る。

「元気そうで何より。」

「タクミ!!?」

久しぶりに目にする懐かしい顔は自然と栢木を笑顔にした。

タクミと呼ばれた青年はあははと楽しそうに笑い親指で移動するように促す。

そして自ら歩き始め栢木もそれに素直に従った。

「会えて嬉しいわ。久しぶりね、タクミ。」

「お嬢さんにはそうでしょうけどね。俺はそんな感覚ありませんよ?」

「どうして?」

「ずっと見てましたからね。」

横を歩くタクミが前を向いたまま出した答えに栢木は瞬きを重ねる。

彼の言うこと、それをそのまま解釈すればいいのだとしたら。

「ずっと付いていてくれたの?」

「いいえ。俺はあの時遣いに出てましたからね。追いかける形です。」

少し懐かしいものを見ている遠い目をしたかと思えばタクミはすぐに栢木に視線を送ってまた笑顔を見せた。

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