陽だまりの林檎姫
「ビックリしましたよ。栢木の屋敷に戻ればお嬢さんが家出してるんですから。」

しかも家族総出で見送ったって話じゃないですか、そう続けるとタクミは肩を竦めて視線を前に戻す。

「…急いでたのよ。でもよく私の居場所が分かったわね。」

「俺の得意分野でしょ。ちょっと意外でしたけどね、こんな遠くまで逃げるなんて思ってませんでした。」

「国外だと出国履歴で分かるでしょ?だからほとぼり冷めるまで遠い所で身を潜めようと思って。」

「懸命な判断です。その頭もね。」

そう言って栢木と視線を合わすとタクミは目を細めた。

栢木はその言葉の半分が理解出来ずに眉を寄せて疑問を訴える。

「言ったでしょ、ずっと見ていたって。そんな俺が姿を現す理由は。」

「家に何かあったの!?」

タクミの言葉を理解して栢木は素早く反応を示した。

タクミが陰から見守っていたのだとしたらこの先も姿を現さずにそのまま任務を続行していくだろう。

しかし今回栢木の前に姿を現したということは何か意味を持つということだ。

それは確実に栢木自身に関わる大きなことに違いないと悟り、タクミの言葉を遮るように食い掛かった。

「そうですけどね。もっと言えばお嬢さんに、です。」

「私?」

「ええ。俺よりは時間がかかったようですけど、ようやくここまで辿り着きそうですよ。」

何が、そう口にしようとしたが声にする前にそれが何を示しているのか気付いて栢木は目を見開く。

タクミもご名答と言わんばかりに苦々しく笑みを浮かべた。

「ダグラス伯爵ご子息です。」

しっかり声にして出されたことによって栢木の脳裏に浮かんだ顔が体の自由を奪っていく。

「キリュウさん…。」

すっかり足の止まってしまった栢木の傍から離れずタクミは言葉を続けた。

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