陽だまりの林檎姫
自分が主張するようにきっかけは北都の身勝手な行動、それは間違いない。

しかしダンに迷惑をかけたのは北都の言う様に栢木の判断ミスであること間違いなかった。

「ううー。」

泣きたくなる気持ちを宥める様に栢木は項垂れる。

「とにかく屋敷に戻りましょうよ。」

ミズキといい栢木といい、そんな思いを抱えてため息を吐くと北都は栢木から資料を受け取り荷物を片付け始めた。

抗議とも取れるその呟きを聞き逃さなかった栢木はあからさまにテンションが落ち切った顔で反抗の舌打ちを返す。

「お前…今舌打ちしただろ。」

「いいえ?」

北都の睨みを笑顔でかわし席を立とうとすると、それを制するかのように声がかかった。

「失礼。少しお時間宜しいですか?」

聞き覚えのない、しかし踏み込んで来ようとする声に栢木の背筋が凍る。

瞬間的にタクミの言葉を思い出し完全に固まってしまったのだ。

しかし幸か不幸かその声は栢木に向けられたものではなかった。

「相麻北都先生とお見受けしますが。」

その言葉に顔を上げると声の主を観察するように眺めて目を細める。

やはり見覚えのない人物、しかし中年男性の様子に敵意のようなものは感じられなかった。

踏み込んで守るべきか、そこに至るまで2秒とかからなかったと思うがそれよりも素早く打たれた手に驚かされる。

「いえ。人違いですよ?」

きょとんとした顔で疑問符を浮かべる北都の姿はまるで別人だ。

心底身に覚えがないと思わせるほどの反応に相手も困っているようだった。

勿論、驚き固まっている栢木も同様だ。

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