陽だまりの林檎姫
「な?」

抜き打ちと言わんばかりに北都から同意を投げかけられて栢木は思わず頷く。

「…ええ。申し訳ないですけど。」

低姿勢で言葉を添えたものの栢木の視線は勘ぐるようなものだった。

「し、失礼!」

わざとらしくした態度だったがそれが強く効果を見せたようだ、男性は焦ったように言葉を投げて足早に2人の前から去って行った。

「何だったんだろうな。」

「そうですね。」

トドメとばかりに北都が首を傾げて呟くと栢木もそれに同意せざるを得ない。

とはいえ納得がいかない栢木は眉間にしわを寄せて口を尖らせた。

言いたいことは沢山ある、しかしここでそれを口にしてはいけないこと位分かっていた。

「帰るか。」

長居は無用と立ち上がり北都は荷物を持つと歩き始める。

「あ、こっちですよ!」

思わず名前を呼びそうになるが何とか飲み込んで栢木は馬車の方角を手で示した。

栢木の指示に従って方向を変えた北都に寄り添う様に駆けていく、真横に位置し小さな声で囁き北都に尋ねた。

「手馴れてましたね。初めてじゃないんですか?」

その声は低く、北都にだけ届けばいい大きさで答えを求める。

北都は横目で栢木を確認すると呆れたように短い返事をした。

「さあな。」

「その反応だとさては!」

勘ぐった通りどうやら何度かある出来事の様だと栢木は判断して憤慨する。

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