陽だまりの林檎姫
俺を狙う奴などいない、それしか言葉を持ち合わせていないかのようにボディーガードを断っていた北都。

実際に勤め始めてからかなりの月日を過ごした栢木だったが今日の様な出来事は初めてだった。

「言ってくださいよ!私の仕事!」

それこそ自分に与えられた任務だと必死の形相で訴える栢木だったが北都は薄目で眺めて口を閉じる。

「な、何ですか。」

何となく分が悪くなった気がして思わず引いてしまった。

北都のため息も刺さる様に痛い。

「突発に弱そう。」

「…ぐっ。」

短い言葉に込められた切り捨ての判断はさっきの栢木の行動を見事に批判していた。

確かにキリュウの差し金かと構えてしまったので平然とした対応が出来なかったように思う。

北都がした様に堂々と否定する態度はこれからの自分にも役に立つ見本ではないかと、悔しさを堪えて栢木は少し考えた。

「これからは気を付けます。」

しかし北都のことだ、無視を決め込んでいたら次第に生まれた策なのだろう。

無視するだけではかわしきれない相手がいた時に白を切る方法でも見付けたのだ。

「お手本ありがとうございました。」

迷走した挙句掴んだ方法を見せて貰えたことには感謝したい。

栢木はその気持ちと嫌味を込めて笑顔で北都にお礼を伝えた。

相変わらず視線を合わすだけで言葉を紡がないがそれでも2人の間に流れる空気は以前とは違う。

声に出さなくても感じ取れる北都の気持ちに栢木は微笑み言葉少なめに馬車への道を案内した。

「お待たせ。」

馬車の箱を軽くノックしてダンに帰りを伝える。

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