陽だまりの林檎姫
また呆れたような声が投げられる。

てっきり商売に困った人たちが命を狙ってくるとか、北都の頭脳を脅威に感じた人たちが命を狙ってくると考えていたなんて口には出来ない。

ボディガードなんて大層な職種を与えられたのだから戦闘もあるのだと覚悟して毎日筋トレを行っていた程だ。

いやいや、もし力づくで来られた時には栢木の鍛錬が役に立つはずだと過去の自分を否定しないであげたい。

北都の問いに答えずに自分の中で議論を深めていく様は百面相の様で北都はますます呆れた表情を浮かべた。

栢木の表情を見ればその時栢木が何を考えて結論に至ろうとしているのかが手に取る様に分かる。

幸せな奴だな、そう思いつつ北都は栢木が当然の様につけているものに目がいって頬杖をつき直した。

「…それ、いつまで付けるんだ?」

「はい?」

それ、が何か分からずに栢木は疑問符を浮かべる。

しかし北都は教えてくれる様子もなく、栢木は両手を見つめたり服装を見直したりとますます疑問符を打ち出していった。

「何ですか?」

やはりまだ分からないらしい。予想どおりの反応にため息をつくと北都は栢木の頭を指して目を細めた。

頭を触っても分からない、しかしいつもより短い髪に気付くと同時に北都の言いたいことも判明して目を大きくした。

「ああ、ウィッグ!どうです、結構似合ってると思いません?」

解決したことから笑顔になり、自信有りげに髪の毛を少し摘んで北都にお披露目をする。

おそらく自分の中では評価が高いのだろう、しかし北都の反応は悪く眉をひそめて渋い顔をしていた。

「感じ悪いですね。」

思い描いた理想の反応ではない北都に対し栢木は不満を前面に押し出す。

確かに理想は高すぎたのかもしれない。

似合ってると笑顔で応える北都は容易に想像できないのも事実だったが、何か言ってくれてもいいじゃないかとも思う。

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