陽だまりの林檎姫
期待はしていなかったが捨てきれない僅かな思いが栢木にため息を吐かせた。

やっぱり相麻北都とはこういう人なのだ。

残念だと心の中で泣いて終わろうとしたその時、不意に北都の手が栢木の髪に触れ二人の距離が縮まった。

さっきまで頬杖をついて壁に体を預けていた人物が手を伸ばして触れている。

「…やっぱり栢木は金髪の方が似合うな。」

無表情のまま、至近距離で北都が呟いた。

北都の香水がふわりと鼻を掠めてその距離の近さを更に感じさせ心臓が鳴る。

手が頬に少し触れたのは気のせいだろうか。

予想外の変化球に気持ちが追い付かず、栢木は照れて何も言えなくなってしまった。

背筋が伸びて固まってしまった栢木の様子を窺うように北都は首を傾げるがそんな余裕は栢木にない。

馬車が作る小刻みな揺れのおかげで触れた北都の手はすぐに遠ざかったが余韻は確かに今でも残っていた。

「ほ…ほく…北都さん!」

顔を赤くしたままガチガチの状態で北都の名前を絞りだす。

目を細めることで何かと問う北都に向かって栢木は決死の思いで口を開けた。

「乙女心をくすぐっても無駄ですからね。ちゃんと罰は受けてもらいます!」

その顔は明らかに冷静さを取り戻したもので栢木は怒りだけを訴えている。

しかし聞き捨てならない単語に北都も不機嫌な表情で応戦した。

「罰?」

「そうです!いくら言っても聞いてくれないなら私にだって考えがあります。食堂で食器洗い、やってくださいね!」

何を言い出すかと思えば予想外の展開に瞬きを重ねる。

堂々とした態度、決して引かない栢木の姿に北都は素直な気持ちで舌打ちをした。

「舌打ち!?」

「寝る。」

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