陽だまりの林檎姫
体を椅子に預けて目を閉じる。

腕を組んだまま寝るのはいつもの態勢、寝ると宣言した後は一言も話さないのもいつもどおり。

怒りが治まらないとはいえ栢木は予め車内に用意してあった毛布をかけて安眠の手伝いをした。

静かな時間が訪れる。

馬の蹄の音と馬車が揺れる音が心地よく安らぎを連れてきた。

北都の寝顔を見て、さっき起こった出来事を思い返す。

屋敷内ではなかなか好評だったウィッグ、一応気付いてくれたけれど好みじゃなかったのだ。

「結構気に入ってるのに。」

街中を自毛のままで歩いていたとき、目立つ金髪で警護が出来るのかと何度か言われたことがあった。

確かに目立つかもしれないがその要因は栢木だけではない。

さらさらの黒髪に整った顔立ち、黙っていればスマートな外見の北都は十分に人々の視線を奪っているのだ。

人を寄せ付けない雰囲気があるから誰も近寄らないだけで、それなりに背の高い北都は多くの女性が見惚れる人物。

特別優れた容姿ではないが、それでも社交界では若い女性に囲まれる程度の魅力はある。

本人はそれに興味がなく、しかしそんな人の横にいる金髪は更に目立つだろうと栢木は諦めるしかなかった。

不満要素を1つでも解決していこうと用意したウィッグの評価が低かったが、キリュウのこともあるし手放す訳にはいかない。

ふと遠くに寄せていたタクミとの記憶が過って表情が曇ってしまった。

正直、怖い。

ここまでくれば見付けられないだろうし追いかけてこないだろう、そう油断しきっていたところに報告はやってきたのだ。

タクミの前ではああ言ったものの、気が気じゃなかった。

金髪を隠せば少しは見付かりにくくなるだろう、僅かな望みを握りしめて栢木は何となく北都の手元に視線を向けた。

力なく置かれた手から伸びる指先、すると突然さっきの記憶が思い出されて栢木は顔を赤く染めた。

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