陽だまりの林檎姫
「無事に見付けられて良かったわ。ごめんなさいね、私がしっかり把握していなかったから。」

頬に手を当てて申し訳なさそうにする。そんなマリーの姿は可愛らしくて、彼女の持つ温かい空気が栢木を包むようだった。

「気にしないで。次は先手撃つようにするから。」

前ほどの頻繁さはなくなったものの、隙を見ては栢木の目を盗んで1人で何も言わずに外出を繰り返す。

悪戯なのか気晴らしなのかは分からないが、北都の逃走癖はまだまだ治りそうになかった。

それに今はそんなことよりもウィッグの評価についてだ。

「ねえ。マリー、このウィッグどう思う?」

さっきの北都とのやりとりを思い出し、震える子犬のような目でマリーを見つめ答えを求める。

それだけで北都の反応がイマイチだった事が分かりマリーは優しく微笑んだ。

「素敵よ。栢木は背も高くてスタイルがいいから何でも似合うわ。」

「気に入ってるんだけど…付けてていいかな。」

金髪の方がいいとさりげなく褒めてくれた北都の言葉が栢木の心をくすぐった。

嬉しい様なそうで無い様な複雑な女心が栢木の決心を鈍らせようとしているのだ。

「構わずそれを被ってなさい。」

全てを見通しているのか、気にしても仕方ないわと遠回しに言っているように聞こえて顔を上げた。

マリーの笑顔はどこまでも優しく包み込んでくれるようだ。

「勿体ないしね。」

「ええ。栢木の思う様にしたらいいの。それが正解よ。」

「ありがとう、マリー。」

迷いから吹っ切れたようで2人は何度も頷き合いようやく納得した。

「そういえば、留守中に千秋様がいらしたのよ。」

「社長が?」

手招きす様な手振りをつけながら報告してきたことに栢木は驚きを隠せない。

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