陽だまりの林檎姫
「不満そうだ。」

見透かしたように笑うミライに栢木は少しいじけた様な顔もした。

「不満なんてない。」

「じゃあ何?」

すかさず返してくる言葉に詰まらせたのは栢木の方だった。

「…ふがいなさ?」

自分でも何かが分からなかった。ただ不満じゃない事だけは分かる。

栢木は人々の命を救う画期的な新薬を開発した北都を尊敬していた、それは今も変わらない。

「あの冷たさには不満よりも切なさの方が大きい。」

ああ、と思い出しながらミライも大きく同意の声をもらした。

北都は必要以上に会話をしようとしない。

指示や命令でさえも滅多にないくらいに口を開こうともしなければ目も合わせようとしなかった。

必要以上に近寄るな、そんな威圧感さえあるほどだ。

「あまり接しない私でさえ恐いというかキツイというか…基本は無視だしね。」

過去の記憶を振り返ってしみじみと切なさを噛み締める。

長く仕えるミライでも慣れるまでは怒らせてしまったのではないかとビクビクし、慣れれば関わらないよう努めるようになった。

「栢木は関わらないといけないからね。…辛い?」

気持ちが分かるだけにミライも心配になる。

嫌われても自分から関わっていかなければいけない立場の栢木、適度な距離感は自分で見付けなくてはいけない。
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