陽だまりの林檎姫
「北都さん?」

妙な間に違和感を覚えて北都の様子を窺うと、彼は手を額に当てて俯いていた。

「どうかしましたか?」

俯く態勢なんて北都にしては珍しい。

嫌な予感がして横から表情を覗きこもうとした瞬間、北都の体が数歩下がり桶を落とした。

「あ…。」

拾おう身を乗り出した栢木とすれ違う様に北都の体が地面へと倒れていくのを横目で感じる。

「えっ?」

急いで振り向けば、片手は額に当てたまま両膝をついて耐えようとする北都が耐えきれずにもう片手を地面につく瞬間を見てしまった。

衝撃からか吐き出した北都の息の強さに栢木は息を飲んだ。

「北都さん!」

「…っはあ!」

「北都さん、大丈夫ですか?北都さん!」

只事ではない気配に栢木はすぐさま北都の体を支えるべく駆け寄る。

全身で息をしているのだ。激しく上下する体に異常事態を知らされて怖くなった。

どうしよう、誰かに伝えないと。

その思いが強く表れ体を起こして周囲の様子を窺うが勿論この真夜中に人の気配は無かった。

こうなれば大声を出して助けを呼ぶしかない。

深く息を吸おうと構えた時、北都からか細い声が聞こえて栢木を制止した。

「…騒ぐな。」

「でも北都さん!」

「薬を…っ!」

そう口にしたはいいが本来あるべきポケットの中に薬が無いと感覚で気付く。

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