陽だまりの林檎姫
どうする、今この場にない以上は薬がある場所まで行かなければいけなかった。

「北都さん、薬ってどこですか?」

焦る栢木の声に北都の心が乱されていく。

どうする。

薬が保管されている場所は2か所だ、1つは仕事部屋である書斎の引き出しの中。

そしてもう1か所は。

「…研究室?」

本能的に視線を送っていた研究室、栢木は北都の視線を追って薬の居場所を突き止めてしまった。

やってしまった行動を責めても仕方ないが憤りを感じて北都は更に表情を歪めてしまう。

「入ってもいいですか、北都さん。」

追い込むように栢木が尋ねてきた。

これまでか。

諦めに似た覚悟が北都の中で生まれ口を固く閉じる。

「入りますよ。」

強く言い切る栢木に従う形で北都は項垂れた。

呼吸は少し落ち着いている。

「…手を貸してくれ。」

いつになく力強い声が聞こえて栢木は思わず身構えた。しかしそれは許可の合図だ。

「はい。」

北都の体を起こすとそのまま肩を貸す形で二人は研究室の扉の前まで歩いていった。

この先は北都以外に誰も足を踏み入れたことのない場所だ。

緊張して体が震えるが、ゆっくりと手を伸ばしてノブを回し扉を押し開けた。

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