陽だまりの林檎姫
確かに北都の言うとおりだった。

情けない、そんな思いが自分の中に生まれて誤魔化すように苦笑いをする。

北都は覚悟を決めた、次は栢木の番だ。

「…話が長くなります。お付き合い願えますか?」

それはいつか聞いた言葉に似ている。

北都は目を丸くすると栢木の思いを汲み取り小さく何度か頷いた。

「ああ。」

ありがとうございます、そう答えて今度は栢木が遠い目をした。

今こんな格好しているのには理由がある。

「こんな格好している理由は…いつでも逃げられるように。」

「え?」

「先日、私の下に栢木家に仕える従者が来ました。タクミと言います、今ももしかしたらこの屋敷を見張ってくれているかもしれません。」

「は…え?見張るってどういうことだ?」

展開の早さに付いていけず北都は疑問符ばかりを浮かべて何かと訴えてきた。

こんな北都を見るのも珍しい、驚くとこうなるのかと楽しんでいる余裕もなく栢木は手元に視線を落として息を吐く。

「婚約者が…私を探して追ってきている様です。」

北都の目が大きく開かれ僅かに口が開いた。

「これだけ求愛されるというのは一種の誉なんでしょうけど、やはり望まないものだと困りますね。」

「追って来てどうなるんだ?」

「分かりません。でも自分のこの判断を見る限り会いたくも無さそうですよね。」

栢木は両手を開いて自分の身なりを改めて眺めると苦笑いを浮かべる。

逃げられるようにと構えている時点で見付かってはいけないという警告を感じているのだ。

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