陽だまりの林檎姫
「相手は…まあ勿論貴族だろうけど。」

「伯爵家の御子息です。ダグラス・キリュウ殿と言って…私の従兄ですね。」

「従兄!?」

「狭い縁談ですよね~。」

他人事のように呆れる栢木とは別に北都はただ驚くばかりで瞬きを重ねていた。

開いたままの口は彼の中の衝撃を表しているようだ。

「父方の従兄です。うちの父は婿入りで栢木家を継いだんですよ。キリュウさんとはずっと昔に何度か遊んだ記憶があります。今ではすっかりその記憶とは違う人になってしまっていましたけどね。」

ダグラス家は父親の実家ということもあり祖父母に会うため何度も訪れたことがあった。

大人たちが談笑する間、子供たちは集まって広い屋敷内でよく遊んだ記憶がある。

ダグラス家にはキリュウとその弟、栢木家には兄と弟と男ばかりの中で紅一点で可愛がられた覚えもあった。

中でも一番年上のキリュウは随分と落ち着いていて皆をまとめる役回りだったと栢木は目を細める。

やっちゃな男が揃う中でキリュウは極めて大人しく紳士的な印象が強い。

栢木が躓いて転んだ時も手を差し伸べてくれ、大丈夫だと優しく頭を撫でてくれた。

いつしか寄宿学校に行ってしまったキリュウとは会えなくなり、祖父母が亡くなった後のダグラス家にも足が遠くなってしまう。

年頃ということもあって幼い頃にあった以来、キリュウに話は伝え聞くばかりで会うことも関わることも無かった。

しかし彼の存在も忘れかけた頃、キリュウから突然栢木に結婚の申し込みがあったのだ。

「青天の霹靂でした。それは父も同じだったようで文書を何度も読み返しては首を傾げてましたから。」

腑に落ちないものの事実は栢木に伝えなくてはならない。

父であるタオットは栢木に判断を委ねた。

「前にもお伝えしましたが両親は本人が望まない結婚は認めません。私が首を横に振るとすぐに頷いて断りの返事を書いてくれました。」

でも、そう続けて栢木は盛大なため息を吐く。

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