陽だまりの林檎姫
タータン先生とは北都の治療をした医師の名前だ。

「先生が何かの集まりの時に金色の髪を持つ栢木という伯爵と話をしたことがあると言っていた。会話が弾んだようでよく覚えていたらしい。街中で俺と歩くお前の姿を見たと尋ねられた時、栢木の名前を伝えたら分かったんだそうだ。」

「…髪色と名前だけで、ですか。」

「父上によく似ているとも言っていた。」

そう言われて栢木は思わず両手を頬に当てる。

確かによく言われる言葉でもあったが、成程、遠目に見てもそうなのかと少し恥ずかしくなった。

「これまでの人間はここまで俺に付きまとってこなかったからな。だから先生も人と関わる様に改心したのかとその話題になった訳だ。」

「ふふ。改心ですか。」

「即座に否定はした。」

タータン医師の顔は分からないが、その時の2人のやりとりが目に浮かんで栢木は笑ってしまう。

「今聞かれたら、どうですか?」

少しだけ欲を出して聞いてみた。

まさかの突込みに一瞬北都も固まるが小さく唸り声を上げて視線を泳がせる。

「改心の意味が分からない。」

北都らしい答えに栢木も声を出して笑ってしまった。

この人はこの人なりに生きてきただけなのだ、それを周りが誤解し理解をしようとしなかっただけのこと。

関われば関わっていくほど北都の人間らしさを感じられて栢木は嬉しかった。

「そうやって警戒しているということは…居場所は知られているのか?」

今までの空気を変えるような北都の低い声に栢木は肩を大きく震わせる。

いつの間にか視線が手元に落ちていることにも気付かされ北都が尋ねた理由にも気付かされた。

知らず知らずに暗くならないよう無理矢理空気を変えようとしていたのだ。

それはつまり、恐怖心を悟られまいとする自己防衛の様なものだった。

「えっと…そうですね。タクミは大丈夫だと言っていましたけど。」
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