陽だまりの林檎姫
3章 踏み出せない一歩
1.狙われた栢木
「その情報は間違いないのか?」
広い部屋で机に向かったままの男性は思わず立ち上がった。
その表情には焦りが混じり、心なしか前傾姿勢で言葉を待っているようだ。
そんな男性を前にタクミは厳しい表情を浮かべると短く肯定の言葉を返す。
「はい。間違いなくキリュウ殿は動いています。お嬢さんの居場所を突き止めるのも時間の問題かと。」
「あの小僧…。誰に似てあんな粘着質になったのか。」
盛大なため息を吐いても少しも心は晴れなかった。
それどころか増していく焦りに捕らわれていくのを感じる。
「主。」
指示を仰ぐように促すタクミの声が男性の視線を微かに上げさせた。
「我が娘ながら…厄介な男に絡まれたもんだ。」
そう嘆き呟いたのは栢木の父であるタオットだ、彼は深いため息をついて額を押さえると小さく唸る。
「こちらの作業が間に合うか。だな。」
「…本当に爵位を放棄するつもりですか?」
「当たり前だろう。娘より大切なものはない。皆が同意して決めたことだ。」
そう返すとタオットは窓の方へ足を進め思いつめた表情で外の景色を眺めた。
今日は風が強いらしい。
力強く揺れる木々は困難に立ち向かう誰かの姿を連想させて口元に力が入る。
「これが正しいとは思わんが…今はこれ以外に道が無いだろう。爵位が無い私などただのおっさん商人に過ぎないがアンナの未来は守れる筈だ。」
それだけが救いだと微笑みタオットはタクミの方へ振り返った。
「それが駄目なら国外に逃亡でもしてやるか。その際にはあることないこと悪徳な奴らだという噂をばらまきながらにしてやろう!」
ネタなら何十年分もため込んであるから何の心配もないと悪い顔をして肩を揺らしても、冷ややかなタクミの視線に虚しさが込み上げてくる。
広い部屋で机に向かったままの男性は思わず立ち上がった。
その表情には焦りが混じり、心なしか前傾姿勢で言葉を待っているようだ。
そんな男性を前にタクミは厳しい表情を浮かべると短く肯定の言葉を返す。
「はい。間違いなくキリュウ殿は動いています。お嬢さんの居場所を突き止めるのも時間の問題かと。」
「あの小僧…。誰に似てあんな粘着質になったのか。」
盛大なため息を吐いても少しも心は晴れなかった。
それどころか増していく焦りに捕らわれていくのを感じる。
「主。」
指示を仰ぐように促すタクミの声が男性の視線を微かに上げさせた。
「我が娘ながら…厄介な男に絡まれたもんだ。」
そう嘆き呟いたのは栢木の父であるタオットだ、彼は深いため息をついて額を押さえると小さく唸る。
「こちらの作業が間に合うか。だな。」
「…本当に爵位を放棄するつもりですか?」
「当たり前だろう。娘より大切なものはない。皆が同意して決めたことだ。」
そう返すとタオットは窓の方へ足を進め思いつめた表情で外の景色を眺めた。
今日は風が強いらしい。
力強く揺れる木々は困難に立ち向かう誰かの姿を連想させて口元に力が入る。
「これが正しいとは思わんが…今はこれ以外に道が無いだろう。爵位が無い私などただのおっさん商人に過ぎないがアンナの未来は守れる筈だ。」
それだけが救いだと微笑みタオットはタクミの方へ振り返った。
「それが駄目なら国外に逃亡でもしてやるか。その際にはあることないこと悪徳な奴らだという噂をばらまきながらにしてやろう!」
ネタなら何十年分もため込んであるから何の心配もないと悪い顔をして肩を揺らしても、冷ややかなタクミの視線に虚しさが込み上げてくる。