陽だまりの林檎姫
「ヤバイやつに限定するなよ。清いやつにしてくれ。」

「主は大人しくおっさん商人でもしててください。その方がお似合いです。」

タクミは遠慮なしにため息を吐くと肩を竦めて話を打ち切ろうと投げ捨てる。

曲がりなりにも主人であるというのにその大きすぎる態度はどうだろうか。

しかしここまで天晴な態度は逆に清々しく、それこそタオットの気にいるところでもあった。

「あっはっは!では買い付けに来てくれ。」

大きな口を開けて笑うその器量はまさに懐の深さや人間の大きさを表している。

さすがに降参したタクミは苦笑いを浮かべて頷くしかなかった。

「機会があれば。」

「機会は作るもんさ。…さて、今日も励むとしよう。」

そう言うとタオットは引き出しから封筒を取り出し名残惜しそうに眺める。

それをタクミ差し出すと、彼は不思議に思いながらも封筒を受け取った。

「これは?」

「もしもの時、キリュウに渡してくれ。それなりに効果がある筈だ。」

裏の封ろうはタオットが愛用しているものだ、では今さら何がかかれているのだろうかとタクミは目を細める。

「単なる時間稼ぎかもしれんがな。最後の足掻きというやつだよ。」

吐き捨てる様に呟かれた声と引き出しを占める音が重なった。

タオットの表情は厳しい、思う様に事が運ばないもどかしさと焦りが織り交じっているのだろう。

「タクミ。」

「はい。」

「アンナを頼んだぞ。」

凄みのある声は普段のタオットからは考えられない程の迫力を持ってタクミに向かってきた。

言いようのない圧力がタクミの心にのしかかる。

なんと重い任務だろうか。

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