陽だまりの林檎姫
「ケイト先輩!いつもより痛いです!」

「およしなさい、鈴ちゃん。品が無いわ。」

「いや、ケイト先輩こそコレ止めてくださいよ!」

コレと言いながらさっきやられたばかりのチョップを手で再現して見せる鈴。しかしそれには一切触れず、栢木に向き合ったケイトはふわりと優しい表情で微笑む口を開いた。

「すぐに三浦が参ります。このままお待ちください。」

「…はい。」

堂々たるケイトの対応に強さを感じて何となく怯みながら返事をする。

「ちょっと、せんぱ…。」

「鈴ちゃん?」

相手にされない鈴は憤慨し始めるが、温度を感じさせない張り付いた笑顔を向けられ気持ちは一気に凍り付いた。

いいから仕事をしろ。

そんな言葉が聞こえてくるようで鈴もすごすごと体を正面に向き直して本来の姿に戻っていく。

「失礼しました。」

「い、いえいえ。」

恭しく頭を下げるケイトの実力を見せつけられたようで栢木はただただ恐縮して頭を下げた。

「栢木さん。お待たせしました。」

間もなく三浦が登場したことによって受付周辺の変な空気は平常に戻される。

やはりイケメンの力は偉大で社内でも変わらず多くの女性を虜にしているようだった。

ケイトは分からないが鈴は間違いなくピンクの空気をまとっている。

「こんにちは、三浦さん。いつもありがとうございます。」

「こちらこそ。さ、行きましょうか。」

手を差し出し促した三浦に続いて栢木も社長室の方へと歩き始めた。

少しして背後からまた鈴の短い悲鳴が聞こえてきたが振り返るのはやめておこう。

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