陽だまりの林檎姫
明るく笑うがそれもどこまでかは分からない。

関わっても関わってもこの三浦という男の腹の内は見えないものだ。

こういう時は口を閉じてただ話の終わりを待つに限ると栢木は黙ることにした。

やってしまったものは仕方ない、後はなるようになるだけだ。

「北都さんの様子はどうですか?」

「はい。変わりなく過ごされています。」

「それは何よりです。しかし栢木さんのウィッグ姿も板に付きましたね。元の髪も綺麗でしたが、今も十分美しい。」

ウィッグという単語に一瞬反応してしまったが栢木はすぐに得意の笑みを出して会釈をした。

「ありがとうございます。」

いつも通りの社交的な栢木の振る舞いに三浦は寂しげに目を細めて頷く。

「相変わらずお見事です。」

「え?」

「いえ、こちらの話です。しかし今日は荷物が多いのですが大丈夫ですか?」

さらりと話題を変えて三浦は何でもないように進めていった。

社長室手前にあるもう1つの受付に辿り着くと三浦の顔パスでそのまま中に入っていく。

受付より奥に進んだことがない栢木は戸惑いが生まれて足が遅くなってしまった。

「大丈夫ですよ、そのまま進んでください。」

栢木の異変を察知した三浦が声をかけてくれる、その言葉に従い栢木は後を追いかけた。

社長室まで扉一枚という所で三浦は止まり、大きな机に近付いて箱を探り始める。

「ここは私の席なんです。散らかっているでしょう?」

「いえ。」

そう答えると栢木は改めて辺りを見回した。

あるのは三浦の大きな机と同じ大きさのものが対面に1つ、どうやら席の持ち主はいないようだ。

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