陽だまりの林檎姫
ずっと昔に父親が持つ会社へ遊びに行ったことがあったが、そことはまた違った雰囲気があった。

それはこの会社が父の貿易会社と毛色の違う製薬会社だからかもしれない。

「珍しいですか?」

「はい。」

素直な答えに三浦は思わず笑ってしまった。

「今日は北都さんの注文していた薬草が届いているんです。」

「はい。そう聞いています。」

「珍しいんですけどね。どちらかと言えば北都さんは直に買い付けに行くことが多かったので。」

「そうなんですか?」

薬草の箱を出し終えると三浦は栢木の顔を見て改めて頷く。

そして手を乗せている箱を眺めて遠い記憶を呼び起こした。

「以前はとにかく…関わりを拒む態度が強かったのでこちらにも殆ど遣いを寄こしませんでした。」

北都宛の荷物が来ても気にする様子もなく放置状態だったらしい。

見かねた三浦が届ける様になったがやはり多忙を極める彼には定期便の様にある一定の量がたまらないと運ばないという形で行っていた。

薬草を買い付けた場合には会社から費用を出すと言っても金額は提示しない。

それどころか費用の請求でさえも行わなかった。

だから北都には会社のお金を最初から渡しているのだが、本当にそれが使われているのかどうかは不明確のようだ。

「最近では栢木さんが来てくれるので助かっています。私の仕事が1つ減りますからね。」

「お役に立てて何よりです。」

「ええ。感謝していますよ。」

三浦との会話の中で栢木はふと浮かんだ疑問に動きを止めた。

「栢木さん?」

何か気になることでもあるのかと続けた三浦に栢木の心が揺れる。

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