陽だまりの林檎姫
聞いてもいいのだろうかと、欲が生まれた。

「あの、1つ窺っても宜しいでしょうか。」

「ええ。私が答えられることであれば。」

「北都さんは他の研究員の方々の様にこちらに出社しないのですか?」

それは前々から疑問に思っていたことだった。

特別開発研究員という大層な肩書が付いているのも気になってはいたが、そもそも北都のような我儘がまかり通っていることが不思議でならない。

それが社長の家族だからであると言われればそれまでなのだけれど。

「ああ。ご存知ありませんでしたか。北都さんは実はうちの研究員ではないんです。」

「え!?」

考えもしない方向からの発言に栢木は思わず大きな声を出してしまった。

慌てて口を押えても後の祭り、次第に赤くなっていく顔のままくぐもった声で謝罪の言葉をこぼす。

「すみません。」

「ははは。いいですよ。本当に関われば関わるほど栢木さんは面白い。」

決して素直に受け止められるような褒め言葉ではないと分かっていてもとりあえずのお礼を言うしか切り抜ける術はなかった。

またやってしまった。

実家に居た頃も社交界の場では気を付けろと家族から散々言われてきたことだと栢木は自分の成長の無さに項垂れる。

気が抜けている証拠だ、1つ息を吐くと失われていた気合を入れた。

「北都さんは相麻製薬の人間ではないということですか?」

「そう言われると難しいですね。北都さんにはわが社の役員になっていただいていますし。」

「役員!?」

「…あれ、伝えていませんでしたっけ。」

栢木の驚き方に三浦も驚いて瞬きを重ねる。

ここまで来れば栢木が忘れている可能性より三浦が伝えていない可能性の方が高い。

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