陽だまりの林檎姫
「少しの慰めになればいい、その思いで作った研究施設がまさかあそこまでの物を生み出すとは思いませんでした。」

参った参ったと頭を掻く三浦に栢木も微笑んで同意する。

確かにそうだろう、北都自身もそこまで強い思いを持って取り組んだ訳ではないと言っていた。

どうせ死ぬのであればと作り始めた薬、それが結果として相麻製薬を大きくしたのだ。

「北都さんには契約という形で研究員の資格を与えています。相麻製薬と専属の契約を結び、以降開発された薬は全て相麻製薬の物とするものです。その代わり研究費用は全て我が社が負担すると。」

「そういう事でしたか。」

「社員にまですると北都さんとの溝が深まってしまうかもしれないと…社長は怖かったようです。役員にしていますが…いわゆる名前だけという様なものでしたから。」

寂しげに話す秘書はどこまで社長の気持ちを理解しているのだろうか。

察しているのか、それとも共有しているのかは分からないが寄り添っていることは確かだった。

「ですが最近ではその心配も無くなりそうな兆しがありますからね。」

そう言って栢木に微笑むと嬉しそうに三浦は続ける。

「栢木さんのおかげです。素晴らしい働きですよ。」

ありがたいと笑う三浦だったが、言葉の含み方が気になり栢木は目を細めてその真意を探ろうとした。

手放しで喜べるような言葉ではなかったように思う。

働きという言葉は栢木にかけるには全うだが、どうも仕事の評価には感じなかったのだ。

「どう意味ですか?」

平たく言えば嫌悪感、栢木はそれを素直に丸出しにして三浦に挑む。

「ああ、すみません。誤解させてしまったようです。…言葉も間違えてしまいましたね。」

弱ったと少し焦りながら手を出して違うと態度を示すが栢木は更に目を細めた。

余計な誤魔化しはいらない、一体どういう意味なのかと空気だけで訴える様はなかなかの迫力だ。

「ええと。つまりは栢木さんの存在が北都さんを変えてくれたのだと私も社長も思っているんです。」

「私がですか?」

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