陽だまりの林檎姫
「おかえりなさい…栢木?どうしたの?」

必死の表情で歩く栢木にマリーが眉を寄せて声をかける。

「出かけてくる。」

「出かけるって…?」

「北都さんのところ!」

「えっ?ちょ…ちょっと待って、栢木!」

マリーの声が呼び戻そうとしているが聞こえていないフリをした。

言い逃げするようにマリーの横をすり抜けて、ちょうど馬を外そうとしている御者に声を張り上げる。

「ダン!ごめん、もう一回出して!」

「栢木?」

「行先はここ!お願い!」

切羽詰った様子で出された新聞広告にダンは戸惑いながらも頷くしかなかった。

栢木が急いで新聞広告を渡す理由は一つしかない。

北都を追いかけるのだ、そう理解するとすぐに馬を動かして戻ったばかりの道を再び走らせた。

「栢木!」

いくらマリーが叫んでももう声は届かない。

箱の中にいる栢木は祈る様に手を組んで震える体を折りたたんだ。

さっき聞いてしまった言葉が頭から離れない。

「言わなくていいって、マリーさんに口止めしたらしいのよ。」

反響して栢木を追い詰める声に体を小さくして耐えるしかなかった。

「北都さん…っ」

会いたい、今すぐに会いに行きたい。

ガタガタと大きく震える手は目的地に着くまでずっと治まることは無かった。



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