陽だまりの林檎姫
一方、栢木が勢いのまま出て行ってしまった屋敷ではちょっとした騒ぎが起こっている。

それは勿論、いなくなってしまった栢木についてだった。

「申し訳ありません。」

マリーの前で頭を下げているのは書斎の前で話をしていた2人のメイド、どうしたものかとマリーは眉を寄せて悩んでいた。

「私たちが軽率なことを…。」

1人が更なる詫びを入れようと口にした時、屋敷の中に馬車が入る報せのベルが鳴り響く。

音の階数でそれが北都の戻りであると分かった。

「話は後にしましょう。お出迎えの準備を。」

いつになく低い声で促すとマリーは玄関の方へと向かう。

やがて北都を乗せた馬車がロータリーに入り、いつもの位置でゆっくりと停車した。

「おかえりなさいませ。」

主人の帰りに使用人たちは深々と頭を下げる。

その中に栢木の姿が無いと気付いた北都は近くに居たマリーに声をかけた。

「栢木はまだ戻っていないのか?」

まさか北都からそう言われるとは思わずマリーの肩が小さく跳ねる。

どう切り出そうかと頭を下げながら思案していたところだったので反応が過剰にでてしまったようだ。

「どうした、マリー。」

言葉なく頭を下げたままのマリーに不信感を抱いた北都が声の温度を低くした。

「…栢木は北都様を追って出かけました。」

「追った?いつだ。」

「一刻はとうに過ぎております。」

頭を下げたままのマリーでも北都が息を飲んだことに気が付く。

「すぐに出せ。大学に戻る。」

御者に指示を出すと北都はもう一度馬車に乗り込んだ。
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