陽だまりの林檎姫
謝罪の言葉も聞いてもらえなかったマリーは急いで顔を上げるが時は既に遅い。

扉が閉まるなり動き出した馬車はもう目的の場所へと向かっているのだ。

「マリーさん…本当に申し訳…っ。」

「いいのよ。もう終わったことだわ。」

憤りの気持ちが大きい時に謝られても今のマリーに余裕はない。

これではいけないと深呼吸を繰り返して自分を諭した。

「これからはお喋りを慎んで、すぐに持ち場に戻りなさい。」

「は、はい!」

何とか気持ちは持ち直したものの晴れきらない何かで多少語気が強くなった気がする。

これくらいは愛嬌だ、そう切り捨てるとマリーも次の仕事へと気持ちを移すことにした。

「マリーさん。」

「どうしたの、ミライ。」

「栢木に何かあったんですか?」

人がいなくなったのを見計らってミライがマリーに尋ねる。

その面持は真剣なもので不安も混ざっているようだった。

「栢木に内緒で出ていったのなら今までと変わりなく思いますけど…栢木を追って北都様も出ていくなんて今までありませんでしたよね?それに何か様子も…。」

心配する気持ちが大きくなりすぎたのか言葉を詰まらせるとミライは視線を足元へ落としてしまう。

栢木がお遣いに出た後、研究室から出てきた北都は新聞を見るなり出かけて行った。

ミライとしてはわざわざマリーに口止めするくらいだから栢木に嬉しいサプライズでもするのかと期待していたのだ。

最近の2人の様子が実に睦まじかったから。

「そうね。私もそれは気になるところだけど。」

気のせいだと思いたかった不安がミライと話したことによって確かなものに変わっていく。

拭いきれずにもう姿が見えなくなった門の方へと視線を送った。

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