陽だまりの林檎姫
「か…っ!」

名前を叫ぶことを遮るように、栢木の姿が馬車の陰で消えた。

馬の蹄の音と地面を蹴る重たい振動、そして車輪が回る忙しない音だけが駆け抜けていき、土埃が立ち込める。

どうなったんだ。

最悪と奇跡がせめぎ合う中で北都の視界が揺らぐ。

心臓が止まったかと思う様な時間の先に一人の男性に抱えられた栢木が見えた。

片腕を掴まれ腹部に手を回されている。

ぶつかる前に引き戻されたと理解するのにそう時間はかからなかった。

「か…っ。おいっ!」

無事かどうかは分からない。

ただ北都は栢木を目指して駆け出した。

「…大丈夫ですか、お嬢さん。」

耳元で囁かれた声に我に返ると栢木は目を見開いてその人物を確認する。

「タクミ…?」

見たこともない苦々しい表情のタクミに栢木は首を傾げた。

「勘弁してくださいよ、本当。」

「どうし…。」

「おい!!」

栢木の言葉を遮るように現れると、辿り着くなり北都は彼女を抱き寄せた。

取り返す形で強く引っ張られた体に栢木の気持ちが付いていかない。

「無事か!?」

すぐに表情を確認すると放心状態に近い栢木がか細く頷いた。

この状態でも分かるほどの大怪我をしている訳ではない、それが分かっただけでもヨシと北都は安堵の息を吐いた。

そして栢木を助けた男性に視線を合わせて口を開く。
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