陽だまりの林檎姫
例え今は無くても興奮状態から抜けた後で痛みに気付くこともある。

そう自分の中で結論付けると北都は栢木のひざ裏に手を入れて立ち上がった。

「え?…っわ!!」

急に重力から解放された体に栢木は戸惑いの声を上げる。

抱きかかえられているのだと悟った瞬間、全身が熱くなり思わず抗議の声を上げた。

「北都さん!」

「馬車まで運ぶ。」

「重たいです!歩けます!私、大丈夫です!」

栢木の切なる願いを訴えても北都は視線も合わせずにそのまま歩き続ける。

それどころか北都の手により力が入ったのを感じると何を言っても無駄だと言われているような気がして栢木は言葉を失ってしまった。

どうしよう。

混乱する頭の中でひたすらに謝ることを考えてしまう。

馬車の前では扉を開いて御者が待機していた。

恥ずかしくてとても顔を合わせられない栢木は顔を北都の胸に埋めて必死に隠す。

笑われていると背中で感じて穴があれば入りたい気分だった。

「大学近くに待機している筈だ。回収しに行ってくれ。」

「はい。」

栢木が乗ってきた馬車を探す指示を出すと北都は栢木を抱えたまま箱の中に入っていく。

いつもであれば北都が座るその場所に栢木を下ろすと、北都は向かい側に腰かけた。

今までとは逆の配置に違和感を覚えて仕方がない。

手の甲で背中の壁を叩き合図を出すと御者はそれに従って馬車を動かし始めた。

栢木と向かい合う、その北都の表情は怒っている。

ここまで素直に不機嫌な顔をするのは久しぶりだと栢木は視線を泳がせた。

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