陽だまりの林檎姫
栢木の言葉に何の返事をすることも無く北都は部屋を出て応接間に向かった。

勿論そこへ向かうまでの会話も一切ないがこれから面会するのは外の人間だ。

「お待たせしました。」

「お忙しいところ申し訳ありません、北都さん。」

「いえ。どうぞ。」

北都が登場したことにより腰を上げた三浦を再び座る様に言葉と手で促す。

僅かに笑みを見せるなど普段の彼からは全く想像が出来ない姿に栢木は思わず視線を宙に浮かせた。

外面だけは本当にいいのだと息を吐きたくもなる。

「ご無沙汰しています。栢木さんも、相変わらずお美しいですね。」

「ご無沙汰しております、三浦さん。」

北都に挨拶をしたかと思えば、傍らに控える栢木に目を合わせるなり目も眩むような眩しい笑顔を振りまく。

しかし栢木は惑わされることも無く微笑むと軽く頭を下げてそれに答えた。

この程度の挨拶など慣れたものだ。

しかしもっと言えば栢木は三浦という男に魅力を感じてはいなかった。

なぜなら彼はあの時いた面接官の1人であり、日常の少しの振る舞いも査定に響かないかと怯える気持ちの方が多いからだ。

ボロが出ない内にこの場から立ち去りたい、今もその気持ちが一番強かった。

北都との関係が良好でないなんて知られたら栢木から辞めたいと言い出さなくても向こうから契約解除を言い出される可能性だってある。

それだけは避けたかった。

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