陽だまりの林檎姫
もし栢木を助けたのがタクミではなくキリュウであればそのまま連れ去られていたかもしれない。

話を聞く限りでは危うさを思わせるものが多かった分、北都は身構えた。

どうにもならない厄介な問題を抱えているのは栢木だけではない、しかし北都はあえて自分もそうであると栢木には告げなかった。

今はまだここにいる。

この距離であれば自分に出来ることがあるかもしれないと、北都は寂しげな瞳に強い光を宿した。

控えめに北都の背中に回された手が気持ちの繋がりを感じさせる。

このまま、ずっといられたらいいのに。

しかし決意の光が包む空間も終わりを迎える。

やがて馬車は連なって少し緊張の残る北都の屋敷に戻ってきた。

「栢木!おかえりなさい!」

北都と共に帰った栢木をミライが両手を広げて出迎える。

「やだ、そんなに強く怒られたの?」

「あ、あはは。」

泣いた跡のある栢木に声を潜めてミライが尋ねた。

赤くなった目に鼻にかかった声は泣いていたという事を否定できない。

もう笑って誤魔化すしかない栢木は察してくれと何も返そうとしなかった。

「おかえりなさいませ、北都様。」

栢木に続いて馬車を降りた北都へマリーが声をかける。

「この度は本当に…。」

「終わったことだ、気にしなくていい。」

謝罪の言葉を遮られたが今回は声を聞くだけで穏やかな感情なのだと分かり、マリーは顔を上げた。

言葉通り、もう気にしていないという北都の表情を見てマリーは申し訳なく微笑む。

「こちらの騒ぎに巻き込んでしまっただけだ。悪かった。」

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