陽だまりの林檎姫
寛大な心を見せてくれたと思いきや、それ以上の労りにマリーの目が見開いた。

寧ろ自分の勝手な判断で迷惑をかけたと、そう北都は言っているのだ。

「ま…まあ。」

言いようのない感動にマリーはお得意の言葉を漏らす。

北都の意識も視線も既にマリーを通り過ぎて栢木の方に注がれていた。

それだけで何を意味しているのか察したマリーは嬉しそうに笑みをこぼす。

「そういえば栢木、さっき相麻製薬で受付をされているキャスリンさんがみえていたの。」

「キャス…ケイトさん?」

マリーの言葉に反応したのは栢木だけではなかった。

北都も興味深くマリーの言葉に耳を傾けてその理由が明かされるのを待つ。

「暫く待ってらしたんだけど、この手紙を託して…。」

「手紙?」

ケイトは昼間に会社へお遣いに行った際、僅かな時間だが会話をした覚えがあった。

何か忘れ物でもしたのだろうか。

特に落とすような物を身に付けていなかった栢木は首を傾げながらマリーから手紙を受け取る。

封ろうも何もされていない紙は可愛らしいが品のある紐で結ばれていた。

忘れ物であれば同封されているのかと思うが、どうやらその線ではなさそうだと紐をほどく。

広げて読み進めている内に栢木の表情が強張ったものへと変わっていくのが分かった。

「栢木?どうしたの?」

傍にいたミライが心配そうに栢木の顔を覗きこむ。

しかし栢木は手紙から視線を上げたかと思うと、ゆっくりそれを北都に向けた。

「栢木?」

放心に近い状態で揺れ動く瞳が北都に何かを訴えている。
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