陽だまりの林檎姫
「キリュウさんが、来ました。」

囁くような声が北都を貫いた。

「見るぞ。」

足早に栢木の隣へ進みそのまま手紙を奪い紙面に視線を走らせる。

栢木へと書き出された文面は丁寧で美しい文字で綴られていた。



栢木さんへ

残念ながら嬉しいお話でないことを最初にお伝えします。

本日、栢木さんが戻られた後受付に栢木家の者だと名乗る方が来社されました。

不審があったということもありますが、栢木さんを呼び出してほしいという申し出は貴女が所属しているかどうかも伏せてお引き取り頂いております。

少し気になりお知らせしようと屋敷にお邪魔しましたが、門付近でその人物を見かけました。

嫌な気配がします。

十分にお気を付け下さいませ。

西訛りの男性でした。



「これがそうだという…。」

「西訛り。」

文面を読み進めてもケイトが見たという男がキリュウや関係者だと確信させるものはない。

気にし過ぎではないのか、そういった思いを込めて北都が尋ねても言葉半分で遮られてしまった。

いつもの栢木にはない強い物言いに声量が無いものの口をつぐまされる。

ぶつかり合った視線は戸惑いの空気を発していた。
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