陽だまりの林檎姫
見てもいいのか、そう視線で訴えれば栢木は小さく頷いて答える。

タクミは栢木が差し出した紙を受け取ると窓枠に腰をかけて文面に目を通した。

「有難いですね。」

全てを読み終わるなりそう呟く、それには栢木も強い気持ちで同意をした。

「ええ、本当に。」

ケイトが教えてくれなければこんなにすぐには分からなかっただろう。

心配し、身を案じてくれたことで栢木のこれからを考える時間が確保できたのだ。

「逃げますか?」

核心をつくタクミに栢木はすぐには答えなかった。

しかしタクミがそう尋ねたのにも理由がある。

栢木がウィッグをつけたままの状態でいたことから、その意思が僅かにでもあると思ったのだ。

闇に紛れてなら逃げ出すことも出来るだろう。

屋敷を出てからこの居場所を見つけるまでかなりの時間を有していたことを考えても、もう一度身を隠せばタオットの企みが成功するくらいの時間は稼げる。

栢木に企みの話は告げていないが、逃げるという選択は悪くない筈だ。

しかし時間をかけて出した栢木の答えは違っていた。

「いいえ。ここに残る。」

タクミは一度目を大きく見開いたがすぐにその思いを探って目を細める。

その口ぶり、声の調子から強がっているだけではなさそうだ。

「逃げてばかりいるから追われるのよ。」

「かなり危険ですよ?相手は普通の精神状態じゃない。」

「でしょうね。」

苦笑いをして栢木は合わせずに伏せていた視線を上げてタクミを向かい合った。

「でもここに残る。」

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